キジしろ文庫

ミステリーや文芸小説、啓発書などの感想やレビュー、エンタメや暮らしの体験と発見をおすすめ・紹介!

ジェイムズ・P・ホーガン「ガニメデの優しい巨人」

あらまし

 木星最大の衛星ガニメデで発見された二千五百万年前の宇宙船。その正体をつきとめるべく総力をあげて調査中の木星探査体に向かって、宇宙の一角から未確認物体が急速に接近してきた。隊員たちが緊張して見守るうち、ほんの五マイル先まで近づいたそれは、小型の飛行隊を繰り出して探査隊の宇宙船とドッキング。やがて中から姿を現したのは、二千五百年前に出発し、相対論的時差のため現代のガニメデに戻ってきたガニメアンたちだった。前作「星を継ぐもの」の続編として数々の謎が明快に解明される!(文庫本表紙見開きより)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:★★★星3 

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

  本書は、勝てば官軍的に荒ぶる魂をほめそやしています。それは、人類や人間の「生」のみにスポットライトをあてていますので、思い上がりの楽天的な帰結にもなろうと思います。恵みへの感謝や尊敬することなく、一人ひとりの個人の問題は、また別に、ということなのでしょう。

 さて、以下は簡単なとりまとめです、参考まで。

(1)問題 ガニメアンは、なぜ、地球動植物をミネルヴァに運んだのか?また、ガニメアンやミネルヴァ固有陸棲動物は、なぜ、消えたのか?これらとルナリアン(人類)の進化との関係性はあるのか?。

(2)事実

①太陽系に戻ってきたガニメアンは、氷河期に備えた、約10光年離れたイスカリスでの恒星の増熱実験に失敗し、超新星爆発からの急きょ退避するなか、宇宙船のブレーキ等の故障もあって、約20年(2500万年)かけて母星ミネルヴァのある太陽系に帰着しました。

②ガニメアンは、動植物移送やミネルヴァの崩壊(驚き、悲嘆、絶望)、ルナリアンや人類の出現(動揺)、ガニメアンたちの行方については、イスカリスへの出発後であったことから知る由もなく、むしろ仲間の死や病気、食料不足など、心身ともに疲労困憊の苦難の帰還のなかでの希望も打ち砕かれてしまい、途方に暮れます。

③しかしながら、時間の経過とともに、ガニメアンと人類は双方親愛をしめし理解をし、宇宙船の修理、地球での歓待など、科学や歴史文化を交換し合い・助け合い、打ち解けていきます。

④しかし、ガニメアンは、ルナリアン手書きの星図にあった「巨人の星」を目指して、地球から旅立ちます。

P283 太陽系は、かつては憚ることのないわたしらの領分だった。しかし、その時代はもう、遥か以前に終わったのだよ。今のわたしらは闖入者なんだ。歴史の忘れものだよ。時間の海にひょっこり浮かび出た漂流貨物の破片でしかない。今や太陽系は人間が過去から正当に承け継いだ遺産なんだ。ここはもうわたしらの世界ではない。

⑤さて、ガニメアンは、人類には理解不能の突出した重力工学などの卓越した知性をもち慎重で理知的であるとともに、威張らず・驕らず・貶めず、自ら卑下せず・謙遜せず・媚びずなど態度物腰は品よく社交的で包容力もある、争いを好まず柔和でとても心優しいく自信に満ちていること(非暴力)が特徴です。

P172 他者の役に立ちたいという欲求がガニメアン社会では金銭欲に代わる動機付けである。

⑥したがって、人類が有する、力強い意志や挑戦・刺激ともいえる対立・競争、執念などの感情や衝動、興奮と狂気を帯びた狂暴・獰猛な暴力・攻撃・戦闘といった、生きることを望みながら殺し合うなどの好戦資質(欠陥、異常者)に恐怖と不安を覚え、生存競争の修羅場である地球の熾烈なジャングルは「悪夢の惑星」と卑下するほどでした。

 その一方で、ガニメアンは、地球動物の進化による、狡猾で陰険な暴力手段を身に付けたものが選ばれて生き延びる世界では、自滅の道を辿るはずが、交換や協力に依存する共同社会や技術文明が高度・急速に発達したことについて、驚異と感じています。

P150 自己主張が、共同生活の中で抑圧された闘争本能の発揚に代わる儀式である

P171 人は誰しも、少なくとも自分が受け取る分に見合うものを社会に与えるべきであって、その確実を期するために何らかの監督手段が取られることが望ましい。

 P180 攻撃性です。強い意志・・・自分たちを滅ぼそうとするものを頑として拒む姿勢です。それが地球人の基本的な性格を決定しています。

P181 地球人はよくゲームということをしますが、それはいずれも模擬戦闘ですね。あなたがたのいわゆる<ビジネス>は進化の過程で繰り返された生存競争の再現です。覇権構想の一形態です。政治は力の論理の上に成り立っています。力の均衡によって対等の関係を保つという考え方ですね。

P181 人類が直面した困難は並たいていのものではありませんでした。でも、人類は常にその困難と闘って、最後には見事に打ち勝ってきました。正直に言って、わたしたちの目にはそれが何やら極めて重要な意味を含むことのように映るのです。

P182 しかも、地球の進歩はますます加速度が増しているじゃありませんか。それは地球人が邪魔物に対して示すあの本能的な攻撃性を自然に向けてぶちまけるからです。人類は、今ではもう互いに傷付け合ったり、爆弾で都市を破壊したりしません。でも、あの攻撃本能は科学者や技術者の中に生きています。企業家や政治家も同じです。地球人は激しい闘いを好むのです。相手が強大であれば、それだけ闘志を燃やします。それがガニメアンと地球人の違いです。ガニメアンは、知識を得ることそれ自体を目的に学びます。問題の解決はその副産物です。ところが地球人は問題に立ち向かうことが先です。問題が解決されてはじめて何かを学んだという意識を持つのです。でも、地球人がそこで求めるのは闘いの興奮です。地球人にとっては勝つことに意味があるのです。

 そして、ガニメアンは、地球を立ち去る際、理論や法則を覆し、原理を否定し、予測を裏切った、人類及びその目覚ましい科学技術の進歩に、むしろ人類の存在やその権利を認めるようになりました。

P289 やめられないんだ。彼らの祖先もそうだったけれども、人類は戦わずにはいられない。彼らの祖先は同士討ちをしたけれでも、彼らは宇宙が投げかける挑戦を受けて立つ。その挑戦がなかったら、彼らはあたら優れた能力を持て余すことになるんだ。

P290 彼らは何かしら誇り高い、堂々としたところを持っているわね。わたしたちだったら避けて通るところを、彼らはしゃにむに突っ切って行くのよ。危険を乗り越える自信があるから。それに、彼らはわたしたちが考えもしなかったこと、最後まで知らずに終わったかもしれないことを身を持って立証したわ。そうやって獲得した知識や自信で、彼らはわたしたちが尻込みするところを構わずどんどん進んで行くのよ。

P293 幾千年もの長きにわたって想像を絶する困難と戦い、厚く高い障害を乗り越えた人類は、今やっと不幸な過去との袂を別ち、知性の輝きに満ちた繁栄の端緒についたばかりなのだ。あと少し自由な時間を与えられれば、人類は不屈の信念で求め続けて来たものを、きっとその手に掴み取るに違いない。彼らはミネルヴァの哲学者や科学者の思想や予測を残らず否定して、混沌の中から彼ら自身の世界を築き上げたのだ。彼らは何人の妨げも受けずにその世界を謳歌する権利がある。

p293 地球人をがんじがらめに縛りつけ、身動きもならぬほどに押さえつけたあらゆる類の欠陥、不備、障害はすべてガニメアンの行為に直接の原因があった。にもかかわらず、人類はこれ以上ガニメアンの干渉を受けることなく、自身のやり方でその世界を完成する機会を正当に与えられるべきである。

 なお、こんなガニメアンですが、CO2上昇時に、不自然な動物とエコロジーであった地球へ、過激な暴力に訴えようとした過ちがあり、罪悪感を感じていました(移住実験を失敗し、動物の絶滅や砂漠化した)。

P186 惑星から病害を駆除すべきだ、という提案が出されました。地球動物を撲滅して、そのあとへミネルヴァの生きものを送り込もうとという考え方です。要するにこれは地球のルールで勝負することに他ならないのだ、と主張しました。

⑦このようなガニメアンの気質には、以下のような経過がありました。

 寒冷のミネルヴァでは、魚などの進化において、大量のO2消費量と老廃物や毒素の排出のために、二循環器構造が発達し、服毒によって肉食類を凌いだ進化の過程を経ました。この草食類への自然選択の結果、肉食類に追われる恐怖・怒り・敵愾心などの無意味な感情は育たず、闘争・逃走本能も発達しませんでした。ただ、わずかのケガによって毒がまわり亡くなるため、丈夫な皮膚や深い毛、知性は敵を倒すのではなく危険を避けるよう発達し、温厚な非戦闘的性質となったものです。

 なお、この二循環器構造は、CO2耐性にも優れており定着しましたが、その後のCO2濃度の低下と、文明化を経た肉食類の不在・毒のためにケガに弱い・毒素中和薬の発見に伴う手術や医療の発展によって、ついには、人工的に第二循環器遺伝子情報を削除してしまいました。そして、突如のCO2濃度上昇が、ガニメアンを襲ったということでした(しかしながら、二循環器構造のミネルヴァ固有の動物も滅んでいだ?)。

⑧カウフマン=ランドール理論などによる、人類はありうべからざる存在という問題

 2500万年前に、人類はCO2耐性もある自己免疫システムを放棄しています。にもかかわらず、CO2濃度が上昇したミネルヴァでは、生き延びたという問題です。

(※)地球動物は、自ら微量の毒素を作り、抗体を生じさせることで、多量の不潔な環境や汚染物を食べても病気や死んだりしないようになっています。しかし、多量の血液を脳に要する人類は、毒素の脳への蓄積によって高い知性が望めないにもかかわらず、そうなってはいない、とうことです。すなわち、自己免疫システムを放棄し、知性の道を拓き、無防備の欠陥を補い、文明を進歩させている、ということです。

⑨その他

 難破宇宙船内の地球由来の多種類のミネルヴァ育ちの動物中に、放射性同位元素を含み現地球動物には存在しない、未知の同一酵素が存在している。これは、環境による変異があったとしても進化の系統から可能なはずの、説明が困難な事案が起きています。

 これまでの復習がてら、ミネルヴァのCO2濃度の上昇が、CO2耐性の低いミネルヴァ固有の陸棲動物の絶滅(代わりに地球からの移送動物が生き延び、ルナリアンに進化し、ミネルヴァを破壊)やガニメアンの植民に至ったことを推定しています。

(3)解答

2500万年前のミネルヴァのCO2濃度の上昇問題

⇒失敗に終わった地球移民実験で得た地球動物の一循環器構造のCO2耐性に着目し、ミネルヴァへ移送

⇒CO2耐性のある遺伝子特質の抽出とガニメアンへの適用を目的に、地球動物への遺伝子改変と人為的酵素によって、混在していた自己免疫システムからの分離実験を開始。

⇒分離はしたものの、自己免疫システムをも排除してしまい、これによる毒物の脳蓄積が減少し、知性を高める一方で、攻撃性や狂暴性も大きくするという肉食傾向の弊害を確認した。これは、ガニメアン的気質からは受け容れられず、実験は失敗に終わった。

⇒その投げ出した、自己免疫シスステムを失った凶暴な地球動物が、ミネルヴァ固有の草食系陸棲動物を一掃するとともに、その後の大量殺戮に明け暮れるルナリアン文明や現人類を出現させることになる。 

P315 彼らは知っていた。自分たちが、憐れむべき畸形の生きものを、過酷な環境の中に置き去りにしてのたれ死するに任せたという自覚が彼らにはあったのだよ。ところが、帰ってみると、自分たちが見捨てた罪の子は宇宙が投げかける困難を呵呵と笑って撥ね返す、誇り高い征服者に育っていたんだ。それで彼らは身を退いたのだよ。人類は自らの手で、自らの方法で築いたこの世界を、今後自由に完成させる正当な権利がある、と彼らは考えた。ガニメアンは人間の正体を知っている。人間がここまで来るのにどれだけ苦労したかを理解している。われわれ人類は過去の不当な干渉故に、もう充分すぎるほど辛い目を見たし、そういう重荷を負いながらも、何とかここまでやって来た。自分たちの運命と立派に対決できるのだということを、人類は身をもって証した。これがガニメアンたちの観方でもあり、また、将来の人類への期待でもあるのだよ。

 (2021.06)

CM 

 最後までおつきあい頂きましてありがとうございました。

では、また!