キジしろ文庫

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カール・セーガン「コンタクト」(上)

あらまし

 20世紀末のある日、ニューメキシコ砂漠の天文台が、奇妙な電波信号をキャッチした。それは厖大な素数系列で、発信源は26光年彼方のヴェガ系惑星と判明した。地球外知的生物からの電波探査機関〈アーガス〉の責任者エリーが、待ち望んだ瞬間だった。世界の専門家が協力しついに信号は映像化されたが、スクリーンに現われたのは、あまりにも意外な…。著名な天文学者の処女小説。(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:星1

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

  1/2です。まとめてみました、参考です。

(1)理系オタクでファンタジーな主人公エリーは、親の干渉、無視や嫉妬などの性差別や失恋を経験しながら、異星探査を求め電波天文学の研究者の道を歩みます。そして、地球外知的生物電波探査のためのアーガス計画を統括する所長となります。

    しかし、4年を経過し、広大な宇宙のなかで、進んだ技術手段や信号(緩慢、急速度)の解読は困難といった反対派や、偽や模倣電波をとらえるのみで本物のメッセージの捕捉がないといった、迷いや苛立ちがつのりはじめます。

P59 千年前の科学者たちは、(中略)だいたい、光が波動であることを、彼らは知らなかったのである。とすれば、逆に、いまのわれわれより千年も進んだ文明があるとしたら、われわれはそれをどうして理解することができるだろうか?

P68 彼らが交信を試みていない、という可能性なんです。交信の能力は持っていても、そんなことは無意味だと思って、メッセージを送ろうとしていない可能性だってあるでしょう。

P87 ”動物園の仮説”をもちだした。その要旨とは、こうであるー霊長類の研究家は、ジャングルに棲むチンパンジーの生態を観察するとき、なるべく彼らの生活に干渉しないようにする。それと同じで、地球外知的生物はたしかに存在するのだが、彼らは、この宇宙に他の知的生物が存在するという事実をわれわれに知らせまいとして、姿を見せないのではなかろうか。(中略)銀河系の全文明が非干渉のルールを守るなどということがあるのだろうか?この地球を密かにのぞき見している者が一人もいないなどということが考えられるだろうか? (←そもそも地球外知的生物は存在していないということ)

P96 だが、彼らはきっとーと、エリーは思い直すー(中略)本当にわれわれと交信したいという気持ちがあれば、きっと、われわれが受信しやすいような配慮をしてくれるに相違ない。彼らはきっと、多くの異なる周波数で信号を送ってくれるはずだ。多くの異なるタイムスケールをも使用してくれることだろう。彼らはきっと、われわれの後進性を承知していて、同情すら覚えているかもしれないではないか。

P98 もし成功したら、わたしたちは、この地球における生命の歴史に変革をもたらし、地球単位の偏狭なエゴイズムを打破することになる。(←地球こそが宇宙の中心という自惚れ)

 そして、ついに26光年離れた、誕生後4億年しか経ってない、まだ形成過程にあるヴェガ系からの素数列の電波信号をキャッチします。しかし、関係者を集めた信号解読の場で、偏波変調によって解読したものは、1936年、ヒトラーの行ったベルリンオリンピック開会宣言という、世界で最初のTV電波画像を送り返したものでした。

(2)さて、能力の高さはあるけれど、軍事的情報が含まれないことから、アメリカの国益を損なわないなど公表について、大統領以下で論じられます。そこで、エリーは、画像下にあった更なる書物のようなメッセージの発見(TV放送から得た技術・知能水準を承知した意図的な送信)と、地球自転に伴うデータ欠落を防ぐための各国との協力を求めます。そこで、世界中の科学者のデータと知能を活用する、ワールド・メッセージ・コンソーシアムがつくられます。

 このようななか、メッセージは希望の明かしと受け止められる一方で、物理的破壊を伴う”地球終焉派”千年至福説(キリストが地上に再来し,1000年間神の国により統治したのちに世界は終末にいたるとする一部キリスト者の信仰)などさまざまな宗教論議も活発になりました(狂躁、狂信、恐怖、希望、白熱の論争、静かな祈り、苦悩に満ちた再評価、模範的な自己犠牲、偏狭な独善、画期的な新思想への渇仰)。

(3)とくに、信仰を奪い、人類を絶滅する水素爆弾を考案し、正しいとは限らない科学を崇拝することはないと考え、メッセージが神聖なものか、悪魔的なものかわからないならからこそ、解読作業に宗教者も加わるべきと批判した、科学と宗教の調和を説き、人気と大統領の信頼も得ていた、ファンダメンタリズムの伝道師と、エリーは、神学論争に至ります(大統領科学顧問との同棲が始まるなかで)。

 エリーは、奴隷制度など自己欺瞞や過ちを人間が犯すことのないように、また、曖昧で漠然とした多様な解釈が可能なものに啓示や霊感の入る余地のないよう、メッセージなどの理解を超えるものでも、仮説を立て証明していく懐疑的思考の立場です。 

P279 あなたは神が不在の世界を想像できるはずだ。神の手を借りずに誕生した世界、神の庇護なしに日々の生活が営まれる世界、神の手に抱かれずに人々が死ぬ世界をね。そこでは罰もなければ罪もない。信仰に忠実に生きた聖人もいなければ預言者もいないーそんな世界など馬鹿だとあなたは思うだろうね、彼らは自らを欺いていたのだ、と。そういう世界、つまり、神が不在の世界とは、人間が、いかなる存在理由もなしに生きる世界だ。そこではただ、さまざまな原子がー人間を構成している原子も含めてー複雑な衝突を繰り返しているにすぎない。ちかうかね?

P287 わたしたち人間は、だれしもが自然の驚異に憧れる気持ちを抱いていると思うの。それは人間の心の奥深くに根ざした属性だわ。科学と宗教は、ともにその憧れに縛られているのよ。わたしが言いたいのは、打からといって奇跡譚をでっちあげたり、針小棒大に誇張することはないじゃないの、ということなの。

(4)ワールド・メッセージ・コンソーシアム第1回会議で、メッセージの詳細として、マシーンの設計図(5つの椅子のある12面体の構築物)を示し、地球を破滅に導くトロイの木馬や終末機械の可能性といった、その製作是非が問われました。。

P324 われわれは招待を受けたのですぞ、みなさん。史上未曾有の招待を。すなわち、それは、宇宙の晩餐に出席せよとの招きかもしれん。 

(2021.01) 

では、また!