キジしろ文庫

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ケン・リュウ「折りたたみ北京」

あらまし

 天の秘密は円のなかにある――円周率の中に不老不死の秘密があると聞かされた秦の始皇帝は、五年以内に十万桁まで円周率を求めよと命じた。学者の荊軻始皇帝の三百万の軍隊を用いた驚異の人間計算機を編みだす。劉慈欣『三体』抜粋改作にして星雲賞受賞作「円」、貧富の差で分断された異形の三層都市を描いたヒューゴー賞受賞作「折りたたみ北京」など、ケン・リュウが精選した7作家13篇を収録の傑作アンソロジー。(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:星1 

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 以下は、簡単なとりまとめです、参考まで。

(1)鼠年

 中国との貿易交渉の際に圧力をかけるために、西側が遺伝子改変されペット鼠を集団脱走させます。その交渉が合意に至ると互いを傷付けあうような操作が仕組まれており、事態は終結します。

 末端現場である鼠駆除隊に入った主人公は、共感や失恋、家族愛を抱きながら行軍し、友人の死を経て自分も瀕死の状態に陥ります。主人公は、ヒトもネズミも、同じように都合よく使われる手段に過ぎなかったことを俯瞰します(人権侵害)。

(2)麗江の魚

 主人公は、本人のわからぬままに仕掛けられた、過重労働をしてしまう時間間隔圧縮装置によって、心因性の神経機能障害となります。

 療養所では、逆の時間間隔拡大症の患者とのペアリングによる中和作用を得るというリハビリによって、無事復調・復帰します。このように、主人公の人生すべてを、権力者が無断でとりしきり、弄んでくれています。

(3)沙嘴の花

 主人公は、勤務先からデータを盗み出し売却しますが、その協力者の同僚は捕まり亡くなってしまいます。主人公が工夫をしたものの、DⅤ中の娼婦が、身籠った子の父親は誰かを巡って揉み合いのすえ、ヒモの情夫を刺殺してしまいます。同僚の子の入学資金や娼婦の出産のためにが、逆にアダとなってしまいます。

(4)百鬼夜行

 さびれすたれてしまったお化け屋敷で、捨てられた玩具の主人公は、人間のフリをすることで、幽霊に育てられ、やがて、そのままに思いこんでしまいます。その取り壊しに、身を挺して幽霊たちを守りますが、それにより自分は人間でも幽霊でもはないことをあらためます。

(5)童童の夏

 遠隔操作型のロボットが高齢者の介護だけでなく、高齢者どうしの介護、さらには高齢者が訪問医療や教育などによって、高齢者と社会とのつながりを保つようになります。そして、高齢者が入院しても家族との双方向通信によって、常に隣にいるような、おたがいの思いやる気持ちが伝わるようになります。

(6)龍馬夜行

 神話をもとにした、頭が龍でからだが馬の47tの機械が、人類滅亡後も生きながらえますが、損傷が激しく、他の仲間のいる対岸へ辿り着きます。

(7)沈黙都市

 人々が自由を希求すればするほど、当局は、要注意語リストから健全語リストへと、言論や思想の厳しい統制・監視を強める一方の社会です。また、食料の配給制や空調、性行為の頻度や時間すらも管理されています。暗号メッセージを解明し、主人公は会話クラブに参加し、自由に発言・性行為する感情生活によって、抑鬱したストレスを解放します。

 しかし、自ら書いたソフトが、室内会話の監視も可能としたことから、会話クラブは摘発されます。会話クラブで気持ちを寄せた女性の廃人同様の姿に、声をかける言葉もないことから、安全で平穏な暮らしを捨て、過激派組織へと向かう決意をします。

(8)見えない惑星

 嘘つき、愛そうが良い、元移住者、ふたつの種族、旅行好き、歳を取ると背が高くなる、体が一生内で変形する・世代をかけて変化する、目がない、体を融合・分離する、各惑星の歴史や起源・生態について語られます。多様性ってことかしら?

(9)折りたたみ北京

 機械化・自動化に伴う経済成長によって富裕層が暮らす第1ステージ、上昇志向の強い中産階級の第2ステージ、ごみ処理施設で働くなど最小限の生活を維持するために、たくさんの失業者対策を行っている第3ステージ、という多くの犠牲の上に成り立つ経済構造都市が、折りたたみ北京です。時間を分けて地上に現れるステージ間の往来はできない構造ですが、主人公は、街や建物が折りたたまれる際に、うまくつかまりよじ登り、行き来しました。

 主人公は、子供の教育費のために、第2ステージの大学院生のラブレターを第1ステージの女性に届け、さらに、その返事と、第3ステージ出身の男性の親への薬を無事届けます。ここで、主人公は、気儘で華やかな暮らしぶりを経験します。が、その役目を終えてみれば、思いやりや優しさをもてる、第3ステージに愛着があると感じたように、この都市構造はやはり堅固です。

(10)コールガール

 犬笛というARやⅤR装置による体験をさせて、料金をとる女子生徒です。

(11)蛍火の墓

 引き裂かれた女王の恋の相手は、ひとつひとつ恒星を消して、魔術師の住む時の止まる城で待ちましたが、女王は間に合うことができなかったことで、ふたりは闇となって消えます。

 他方、こづき回され捨てられたかっこうの王女は、魔術師が持ち帰った星のかけら(蛍火)によって、魔術師とともになることで、王女の孤独の心が癒され、永遠の輝きとなって残ります。

(12)円

    始皇帝は、その不老不死への執着を利用されて、大発明でもあった人間演算機の稼働をします。が、しかし、謀略であったため、その最中に隣国によって殲滅されます。

(13)神様の介護

    神文明は、長命化と自動機械によって衰退しました。そこで、老朽化の激しい宇宙船に乗って、かつて種を蒔いておいた地球の家庭に、神文明の先進科学技術知識と引きかえに、介護を願い出ます。

 しかし、亜光速航行技術や半物資エネルギーなど人類科学とは隔絶の差があったので、望んでいた真の共産主義を得ることができず、むしろ家計は逼迫しました。やがて、神の虐待や家出がはじまり、とうとう神は宇宙船を呼び戻します。

 じつは、神は既に死の覚悟はできていて、文明幼年期の情熱、想像性、創造力を感じ取りたかったようです。神は、そのお返しとして、他星にも種を蒔いてた兄弟地球からの侵攻に、地球は備えねばならないこと、また自らの老後の介護をしてもらう子孫を銀河じゅうに増やすこと、そのための亜光速航行技術の習得を諭しました。亜光速船にのって、年をとることもなく、創造主を受け継げということです。

 (2021.12)

CM 

 最後までおつきあい頂きましてありがとうございました。

では、また!