キジしろ文庫

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ジッド「狭き門」

あらまし

 美しい従姉アリサに心惹かれるジェローム。二人が相思相愛であることは周りも認めていたが、当のアリサの態度は煮え切らない。そんなとき、アリサの妹ジュリエットから衝撃的な事実を聞かされる…。本当の「愛」とは何か、時代を超えて強烈に問いかけるフランス文学の名作。(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:★★★星3 

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 以下は、浅薄で独善的な、備忘のための簡単なとりまとめです、参考まで。

(1)主人公の一人であるアリスは、つつましく清らかな心をもつ美しく優しい女性です。アリスは、淫靡な母の不貞・家出をトラウマとして心に抱えていました。

⇒そこで、アリスは、淫らな血をひく自分の身体をおぞましく思い、そして、性愛への生理的な嫌悪や不快感を帯びるようになったのだと思いました。

(2)他方、アリスは、もうひとりの主人公のジェロームへの想いは断ち切れず、むしろ時間とともに、ますます強くなる一方でした。

⇒このようにして、アリスは、ふたりの愛に引き寄せられつつも、受け付けられない自分を直視せず、むしろ心に蓋をして、背を向けるようになったのだと思います。

⇒そして、アリスは、この方向感覚を見失った自分に、神や聖書の言葉を使って、無情な悲恋の運命物語を与えました。そこでは、ピュアな自分という役割を自ら演じることができました。そして、その犠牲的な愛の美しさ・清らかさに安寧・陶酔しました。しかし、さらに深みにはまりこんだゆえに、自失していったのだろう、と思いまいました。

(3)このアリスの身勝手・知的な恋物語に無意識に引きまわされていたのが、アリスのために美徳を積み、愛を覆い隠していたジェロームや快活な妹のジュリエットであり、そして読者であるわたしたちです。

⇒本書最後において、ジェロームたちは、ジュリエットの「もう目を覚まさなくては・・・」という言葉によって、わたしたちは、「ランプを持って、家政婦が入ってきた。」ことで、これまでの狂気から解放されて、日常世界に戻ったのだと思いました。

(4)なお、基本的に、人の生命を粗末に扱うような価値観や倫理観は、あってはならないことだと思っています。なので、全体をとおして本書は、愛と信仰の問題というよりも、人の心をうたせるとっておきのロマンスだったのかなと思いました。

(5)以下は、アリスの現世の愛に対する、禁欲的な克己心に関わる言葉の引用です。

P30 力を尽くして狭き門より入れ

(:キリスト教で、天国に至る門は狭く道は細いが、神の救いを得るには、苦難の道を歩まなくてはならないことをいう。「ことわざを知る辞典」引用)

P42 「・・・わたしたちはみんな、神さまのところにはたったひとりで行くしかないのよ」

P43 「・・・わたしたちふたりが神さまにお祈りをして、おたがいのことを忘れてしまったときにこそ、わたしたちは本当に近づくことができるの。・・・」

P58 「・・・生きているときに離ればなれでも、死んだら一緒になれるのよ」

 P173    「あなたのそばにいると、これ以上ありえないと思うほど幸福に感じるの・・・でも、本当のことをいうと、わたしたちは幸福になるために生まれてきたんじゃないわ」「幸福よりほかに魂は何を望むんだ?」僕が思わず叫ぶと、アリサはこう呟いた。「清らかさ・・・」

P189    「・・・神を愛する魂が美徳にむかって進むのは、報酬がほしいからじゃなくて、天性の気高さからなのよ」

P208 「・・・あなたのおかげで、わたしの夢は本当の高みにのぼることができた。人間としてこの世に満足することは、その夢を高みからひきずり落とすことになってしまうのよ。・・・」

P223 ・・・ああ、神さま!あまりにもたやすく到達できるような幸福を奪ってください!・・・

P233 神さま!わたしたち、ジェロームとわたしは、ふたり一緒に、力を合わせて、あなたのほうへ進みたいと思います。人生の道をたどるふたりの巡礼のように、片方が「疲れたら、わたしに寄りかかって」と言えば、もう片方が「君のそばにいると感じるだけで十分だ・・・」と答えるようにして進んでいきたい。でも、だめなのです!神さま、あなたが教えてくれた道は狭いーふたり一緒には歩けないほど狭いのです。

P240 神さま、あの人をわたしから救うため、わたしが消えなければならないとしたら、どうかそのようにしてください!・・・

 (2022.05)

CM 

 最後までおつきあい頂きましてありがとうございました。

では、また!