キジしろ文庫

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クリストファー・プリースト「逆転世界」

あらまし

 〈地球市〉と呼ばれるその世界は全長千五百フィート、七層から成る要塞のごとき都市だった。しかも年に三十六・五マイルずつレール上を進む、可動式都市である。この閉鎖空間に生まれ育った主人公ヘルワードは成人し、初めて外界に出た……そこは月も太陽もいびつに歪んだ異様な世界? 英国SF協会賞に輝く鬼才の最高傑作。(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:星1 

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 身体機能の損傷や欠損に伴う異常行為、誤認識・認識不足・思い込みやウッカリなどヒューマンエラーは、事後にわかることが多く、また不可避なものです。このために、安全管理で厳格化することよりもむしろ、人がこれによる失敗を恐れ、怖気ずくことのないよう、ダブルチェックやその体制といったリダンダンシーを備えることの方が、人材の活用や成長にはメリットが多いと、本書を読んで感じました。

 さて、以下は、本書の簡単なとりまとめです、参考まで。 

・地球市は、200年前の地球において生じた化石エネルギー枯渇に際し、地表を移動する超側次元窓に反応して電気を得るという人工エネルギー発生器を研究する、消息不明となった移動研究施設の生き残りでした。

・この発生器が、地球市(施設)の人たちへの知覚異常と遺伝の副作用を続けたことで、地球市は狂信集団に変貌したものです。 

・なお、地球市は、ポルトガルの貧困地域への支援活動中のイギリス(発生器を安全利用中)人女性によって発見され、発生器を停止することで覚醒が行われ、都市の墜落・溺死等の大惨事を免れます。

・特徴的なトピックをまとめました。

①移動の是非について

 都市移動理由の秘密化(知覚異常のため納得できる説明は不能)、移動に必要な人手を補うための、原住民への食料などと交換で得る女性(出産のため)や人足の野蛮な借用、これに伴う原住民襲撃による多数犠牲者の被害発生など、地球市が生き残るためとはいえ、その利己的・抑圧的なギルド組織や運営に対して、地球市内では不満や疑念が持ちあがります。さらに、海洋架橋か造船かの選択までして行おうとする差し迫ったなかで、移動停止論が活発になります(ここで、イギリス人女性によって、明らかにされます)。

②空間や時間の知覚異常について

 扁平させた球(Y=1/xといった双曲線をy軸で回転させた形状物)を自転させると、地表物は、重力より勝る遠心力によって外側に引っ張られ、徐々に移動していかざるをえず、最後は留まることもできずに飛び出しかねません。このようにして、人や都市は、常に中心部へ移動することが必要と考えたのです。なお、このための移動の目安となる最適線は、重力の歪みが零となる(超側次元窓のこと)付近のようです。

 ちなみに、中心部では地表がそそり立ち、また、中心部にいくほど人の背丈は高く伸び、外側ほど縮み、モノは扁平になります。方向感覚もありません。また、時間は、中心部ほど早く(年を多くとる)、外側ほどゆっくり進みます。

③ギルド組織について

 測量、軌道敷設・撤去、架橋、牽引といった建設・設備業、原住民からの襲撃に対する民兵、移動に合わせて人足や女性を集める交易などが組織化(ギルド)され、対処療法的に時間を過ごしていきます。

(2021.05)

では、また!