キジしろ文庫

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森博嗣「君たちは絶滅危惧種なのか?」

あらまし

 国定自然公園の湖岸で、釣りをしていた男性が襲われ大怪我を負った。同公園内の動物園では、1カ月ほどまえスタッフ一人が殺害され、研究用の動物とその飼育係が行方不明になっていた。
 二つの事件以前から、湖岸で正体不明の大型動物が目撃されており、不鮮明ながら映像も存在した。兵器使用を目的とした動物のウォーカロンか? 情報局の依頼を受け、グアトらは動物園へ赴く。 (文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:星1

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 WWシリーズの第5巻目です。

 本書は、高齢や自殺など後ろ向きなキッカケでしか選択してない、人格のヴァーチャルシフトについて、やがては煩わしいボディを脱ぎ捨てた電子の知性体へ、さらに自由な高次の知性体へのヒトの進化を扱っています。ここで、ヴァーチャルの境界条件(ロボット原則や恒常性付与など)に、敢えて?あいまいさを残していることで、進化の方向についての主観的感情的多様な判断を残しながら、問題を掘り下げたり・推し進めたり・追求したりと、いろいろ考えさせてもらえるようです。

 また、以下のような、最初から目標や理想があるわけではなく、成り行きと試行錯誤しながら、謙虚になって懸命に力を尽くす心がまえやその行為に、発見や創造がなされるのだと、気持ちをあらためてさせてもらいました。

P208 「常に新しいもの、変化することを求めているのに、あたかも最終目標が存在すると信じる、その矛盾です」(中略)「理想という言葉ができたときに、理想の定義が固定される」

P218「ミスを許せるし、つぎつぎと失敗ばかりするし、なにをやっても裏目に出たり、ちょっとしたことを見逃したりして、後悔ばかりするし・・・。でも、それもひっくるめて許せる。だって、許さないと、リカバできないじゃないか。つぎからつぎへと訪れる失敗を、こつこつと修正していく。やり直して、考え直して、修復する。ミスに苛立っていたら、リカバが遅れる。諦めている暇もない。そうしていると、なんとなく、知らないうちに、完璧というものに近づける。それが、完璧主義者なんだ」

 さて、以下は簡単なとりまとめです、参考まで。

①主人公のグアトとロジは、「あらすじ」にある二つの事件捜査についての助言を、ドイツ情報局から依頼されます。理由は、ドイツ情報局は、従前からあった研究所での疑惑と事件との関連、その発覚の隠滅・影響低減・利用などから、隠密に解決させようとしているからです。

 その疑惑とは、中国フスに吸収されたドイツHIX社の研究員の一部は、当該国立研究所に残り、遺伝子改変により新動物をつくる、自然動物へのコントロール、動物のウォーカロンについての実験研究を続けています。しかしながら研究内容が陳腐化してきたことから、実は、中国フスの資金提供を受けた、違法な、途上国向け兵器利用のための動物コントロール(動物ウォーカロン)研究ではないか、という内容です。

 グアトは、かつてヒトのウォーカロン判別機を考案していたことから、当事件での動物ウォーカロンの脳への電子信号波形などの介在痕跡を捜しだし、犯人逮捕に結びつけるという役割です。

 参考に、ウォーカロンとは、見た目はナチュラルなものと区別がつかない、人工細胞によって生まれ成長する、電子チップ入り?の生体(通常ヒト)です、フスやHIXはそのメーカーです。

②現地入りしたグアトらは、レストランで低周波音に反応したシャチの乱行(コントロール有)、研究所の証拠隠滅のためのミサイル着弾、遊園地を闊歩するクローン恐竜遭遇など、さんざんな目にあった末、自宅へ戻ります。

③自宅で、グアトらは、半年間で13人のウォーカロン研究員の辞職や、遊園地奥でのPC専門家の小屋の発見情報を得て、重傷の釣り人(付近に別荘を持つイギリス人技術者)が、ヴァーチャル転送支援企業との繋がりがあったことから、イギリス人自身・辞職し消息不明の研究員・行方不明のスタッフ・研究施設と動物に、ヴァーチャルシフトのサポートをしていた、と推察します。なお、事件自体は以下のようです。

 ・バーチャルシフト後のイギリス人の不要な自身のボディはシャチに襲わせた。

・飼い主の居ない、恐竜などの研究動物は、通信で催眠化し、研究所から運び出し、小屋でヴァーチャル転送後に?抜け殻となったもの。運び出しの際、遭遇した警備員はヒトによって?殺害された。

・利益重視に伴う研究縮小、差別などへの不満、研究の違法性の感覚をキッカケに、優れた研究環境を求めて、ウォーカロン研究員はヴァーチャルシフトした。

④さらに、その後、既にヴァーチャルシフトしているクーパー博士から、疑惑の真相に至ります。

 その疑惑の真相とは、まず、前提として、ヒトが人工細胞を取り入れた結果、生殖機能を失っている現状があります。そのうえで、メーカーは、かつてのHIX時代からの動物実験のなかで、生殖機能喪失原因(脳細胞への人工操作による)、そのプロセス、対策を突き止めていました。その後もデータ蓄積だけはウォーカロン研究員に続けさせ、利害を考えたうえで、メーカーは数十年間、事実を隠してきました。そこでやってきた、人口減少に伴うニーズの高まりを受けて、生殖機能と両立する人工細胞や人工臓器の開発・生産を発表した、というものでした。

 この状況に気付いたドイツ情報局が、研究員の保護目的でヴァーチャルシフトを先導しますが、さらに、メーカーが、事実データや研究所員の知識や記憶についての情報の隠蔽のための、ヴァーチャル空間内での軟禁(プロテクト)が、コトの真相でした。

⑤さて、現実に戻って、グアトらは、ヴァーチャル観光ツアーにて消息不明の研究員を捜すべく、研究所を再訪します。グアトは、そこで、メーカー外部サーバーの偶然のプロテクト解除によって、無用の扱いに助けを求める、イギリス人技術者をたまたま発見します。

 いったん、ヴァーチャルから戻り、急きょのメンテナンスのためのサーバーへのアクセス遮断を、AIのオーロラが計画したことから、あらためてグアトらは再々訪し、イギリス人技術者と再会し(ヴァーチャル内で)、プロテクト解除に必要なサーバーを特定する地図情報を手に入れます。この結果、グアトらは、フスのギリシャ工場内での警備ロボットとのハードな戦闘の末、解除に成功します(研究員らの二重軟禁は解かれる)。

(2021.05)

CM 

 最後までおつきあい頂きましてありがとうございました。

では、また!