キジしろ文庫

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アイザック・アシモフ「永遠の終り」

あらまし

 時のはざまを彷徨し未来の安寧と平和のため過去を矯正する資格をもつ<永遠人>。厳しい訓練と教育を受けたハーランは15歳のときに、時間管理機関<永遠>の研修生となり、やがてもっとも有能な技術士の一人となった。彼の担当は482世紀。この世紀は人工生殖が隆盛を極めた唯一の時代で、いまや<現実矯正>が必要とされていた。だが、<普通人>の美しい女性、ノイエスとの出会いは、彼の運命を狂わせた。<現実矯正>の結果は、愛するノイエスの消滅をも意味していたのだ。執行日は容赦なく迫るが・・・!?ミステリ・タッチで描く巨匠アシモフの唯一の時間テーマSF!(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:星1 

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 現在、コロナ禍にあって、看護師など医療関係者が不足しています。元々の排他的・閉鎖的な親方雇用構造に対して、ワクチン注射が可能となる英国での簡易な研修などの技能や資格による運用といった、流動性や柔軟性が必要そうですし、このようなピンチをチャンスに代えられるようにもしなければなりません。また元々、職業選択の自由度が少なく制約が多いのですから、非常時くらいは、粗野だけど大局を見誤ることはないよう、平時では特徴的な「魂は細部に宿る」気質は、医療を行う側も受ける側も、暫時お休みした方が良いかもしれません。

 さて、本書からは、まず、獅子は我が子を千尋の谷に落とす、とか、かわいい子には旅させよ、など、試練とは深い愛情によるものだということを、忘れてはならないと思いました。

 そして、二重三重の思惑・介入・干渉・操作といった束縛や制約を乗り越えて、自己判断を貫き通すことが、臨機にも対応でき、人生を全うできるのだと思いました。

 なお、永遠界は、ガラパゴス化(≠グローバル化)に伴って生じた自己満足が、快楽・享楽を経て、怠惰と堕落を生み、腐敗と頽廃に至り、自滅しやすいといった、自家中毒をひきおこしていると考えました。

P325「では、<永遠>が最大の幸福と考えているのはなにかしら。教えてあげましょう。安全と保障よ。中庸よ。事なかれ主義よ。じゅうぶんな見返りがあるという絶対の確信なくしては、どんな冒険もしないというやりかたよ」

P326「<現実>から厄災を除こうとして、<永遠>は同時に勝利をも排除しているのです。人類がおおいなる高みへのぼるもっとも好結果な方法は。おおいなる試練に遭遇することにこそあります。危険とたえざる不安定感のなかからこそ、人類を新たな、高度の征服へと推し進める力が生まれます。それがあなたにわかりますか?一歩誤れば人間をおとしいれる危険や困難を回避することによって、<永遠>は、人間が自らの力でよりきびしい、より高遠な解決方法を見出すのを、困難を回避するのではなく、それを克服することから生まれる真の解決法を見出すのを、妨げているのだということが?」

  以下は、本書の簡単なとりまとめです、参考まで。

・まず、背景として、本書では、現実界と永遠界のふたつが存在しており、永遠界は、24世紀にマランゾーンによる「時場」の発明(タイムマシーン的なもの)によって設置された独占的状態にあるものです。

・その永遠界では、現実界から空気・水・食料、女性、労働者を輸入し、現実界の貧困や病気、物資の過不足に対応して、過去や将来にわたっての通商や現実矯正(例えば、奴隷制経済や核戦争の抑止など)を行っています。一方、現実界では、ハンチング現象の回避のため、永遠界に関する情報はほとんどありません。なお、7万世紀以降は、現実矯正の影響が及ばないよう、未来人によって、現実界との遮断がなされており、担当の永遠人もいません。

・また、永遠界では結婚や子供をもうけることはできず、男性の現実界の女性との性交渉は、影響算定に基づいた許可を要しています。

・このような永遠界では、個人の人生設計を行う人生設計士、社会的影響評価を行う社会学士、現実矯正のシミュレーションを行う算定士らの内業職種と、現実界で手を汚すことから、永遠界では嫌われ、疎まれる外業職種の技術士や観察士、さらには、意思決定機関の評議会が存在します。

・永遠界で技術士となった一匹狼のハーランは、誇りをもち見栄をはる一方、その不満や不信を募らせるとともに、永遠界での他者からの干渉や操作に手籠めにされながらも、その束縛を嫌い、人類の行方についての自己判断を行い、むしろ有害な永遠界を消滅させます。

(1)フィンジの野心による干渉

・ハーランは、上役の算定士フィンジが雇った、現実界からの女性バイトのノイエスから、不死を得ようとした色じかけで誑かされ、また女気に不慣れもあったため、のめり込んでしまいます(無届行為)。

・これは、評議会の長老で上級算定士のトウィッセルからハーランへのひいきに対する嫉妬などの評議員の地位を狙うフィンジの野心と、その野心に気付き、妨げようとするトウィッセルへの敵意によって、仕組まれた罠でした。

・ここで、ハーランは、ノイエスの存在する、快楽に耽る482世紀の現実矯正(永遠人との関係を結ぶことで不死を得る迷信の是正)に伴って生じる、ノイエスの消失回避のため、永遠界に連れ帰り(違反行為)、111,349世紀に匿います。

・なお、ハーランは、社会学士のミスにつけこみ、人生設計士から、ノイエスは現実矯正にかかわらず古い現実でも、新しい現実でも不存在(未来人?)であることを調べます。また、実際に、現実矯正による生まれ変りもなかったので、評議会への関係を認めてもらうことに、以降、執念をもやします。その後、111,349世紀への通行が不能となったことで、ノイエスは評議会によって監禁(その後処刑)されたと受け止めてしまいます。

(2)永遠界存続のための、マランゾーンの回顧録の履行のための干渉

ノイエスの監禁、秘策(クーパー=マラゾーン説)をもって会ったトウィッセルから、ハーランによる永遠界創設以前の歴史教育を受けたクーパーが24世紀に行き、マランゾーンに成り代わって永遠界設立の技術を確立すること、さらに、ハーランは、マランゾーンの残した回顧録に従ったシナリオの重要な役者として利用されていたことを、ハーランは聞き及びます。

・そして、24世紀へのクーパー送致の最終段階で、タイムマシーンの制御役のハーランは、回顧録役者に利用されたこと、ノイエス監禁に伴う恨み、足の引っ張りあいや人を陥れるなどの永遠界の官僚的腐敗に辟易となり、永遠界消滅を狙ってタイムマシーンの行き先時代設定を変えてしまいます。

・ハーランは、その後、トウィッセルによる、妻の死と息子の現実矯正による不運を犯した罪ほろぼしがあることから、ノイエスの身柄は安全であるとの話によって、ノイエスや永遠界消滅至る自らの行動を悔います。

・そこで、依然、現実改変はされておらず、ノイエスを含めた永遠界存続の協力への理解を示したハーランは、ノイエスとともに、クーパーが誤って行ったしまった19世紀へ、クーパーのピックアップのために向かいます。ここで、7万世紀以降の時域の締め出しは、手出しできない未来人の拒絶行為で、それは永遠人による自分より進歩した未来人に対する排除(人類発達の阻害=現実矯正)によるものだという、トウィッセルの空想が語られます。

(3)神秘の世紀の意向実施のための干渉

・19世紀で、二人きりとなったハーランは、これまでの経緯から、ノイエスは、現実矯正を行う永遠界の消滅を企む未来人であると考えたことから、永遠界から連れ出し殺そうとしたものでした。

 ・ノイエスは未来人であることを認める一方、人類は宇宙進出に後れをとったことで、15万世紀に滅亡すること、その原因となった、現実矯正という有害な手引きをする「永遠界」組織を誕生させず、逆に、この19世紀に核実験を仕掛けるといった試練を与え、永遠界再設置の可能性すらも無くそうとしていることを説きます。

P333「わたしたちが彼らを非難するのは、彼らが人類を安全にその故郷に、そして牢獄にとじこめておくために、何度もそれに干渉するからです。」

・決断したハーランは、クーパーを放置し回顧録は閉じることがなく、新たな現実界が始まります。

(2021.05)

では、また!