キジしろ文庫

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カート・ヴォネガット・ジュニア「タイタンの妖女」

あらまし

 時空を超えたあらゆる時と場所に波動現象として存在する、ウィンストン・ナイルズ・ラムファードは、神のような力を使って、さまざまな計画を実行し、人類を導いていた。その計画で操られる最大の受難者が、全米一の大富豪マラカイ・コンスタントだった。富も記憶も奪われ、地球から火星、水星へと太陽系を流浪させられるコンスタントの行く末と、人類の究極の運命とは? 巨匠がシニカルかつユーモラスに描いた感動作。 (文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:★★★星3

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 本書は、無意味で絶望的な受難が続き、世界の意味や人生の目的、幸福とは何かを、考えさせられる奥深い本です(世界の意味や人生の目的、幸福を理性的に求めること、信条や信仰をもつことの無意味さ無価値さがわかる)。

 莫大な富を持ち、女には何不自由しないなどの恵まれた境遇を失い、そして知性と記憶と名前といった人格を消され、次に漂い降りた頼るべき地球の多くの人々からは激しく憎悪され、さらに姦淫と友人殺しの罪の意識に苛まされ赦しを得ようとする。しかし、それが何者かによる操作や利用であったとしても(人の言葉では理解できない意志や目的)、意味や目的など含めたすべてが無くなった後でも(理屈で考えるのではなく)、家族への愛情と友情は、どうあっても決して失うことがなく、「生きる」ことなのだということを、教えてくれます。毎日の仕事や暮らしにかまけて、大切な人との関係を疎かにしてしまいがちなところを、反省です。以下、作中を抜き書きし引用。

・「だれにとってもいちばん不幸なことがあるとしたら、それはだれにもなにごとにも利用されないことである」「わたしを利用してくれてありがとう」

・「人生の目的は、どこのだれがそれを操っているにしろ、手近にいて愛されるのを待っている誰かを愛することだ」

 少し、補足すると、全知全能の神の如く人類を導くラムファードは、作為によって悲劇(ただ殺し合うためだけの意味のない人間同士の無謀な火星地球間戦争)を創り出し、克服する新宗教(目に見えるハンディキャップを負う徹底的に無関心な神の教会)を、兄弟愛を広める信仰として広めます。しかし、最後に友情を疑ってしまったラムファードの新宗教は、その本意とはまったく乖離したうわべだけのヘンテコな平等世界をつくってしまいした(とある宗教への皮肉?)。

 他方、苦難の末、生きることの意味を見出したマラカイには、友情を信じて自殺・復活したトラルファマドール星の機械のサロ(結果的に、ラムファードを使って人類の歴史に介入することで、故障部品の調達を行った)が神の如くふるまい、マラカイを天国に導きました。そうなろうとする万有意志(自由意志?)とは、束縛されないこと・無関心さや気まぐれよりも、他者への共感や感謝、愛情などそういうものかもしれないと思いました。

 なお、全体として、格差、投資、宇宙、科学、ファシズム、戦争、生物、平等、宗教、ロボット、家族、愛、友情などに話が、とっちらかり、振り回されましたが、どうやら、人の一生も同じく散らかっているなあと思いました。(2020.08) 

では、また!