キジしろ文庫

ミステリーや文芸小説、啓発書などの感想やレビュー、エンタメや暮らしの体験と発見をおすすめ・紹介!

カート・ヴォネガット・ジュニア「スローターハウス5」

あらまし

 時の流れの呪縛から解き放たれたビリー・ピルグリムは、自分の生涯を未来から過去へと溯る、奇妙な時間旅行者になっていた。大富豪の娘と幸福な結婚生活を送り……異星人に誘拐されてトラルファマドール星の動物園に収容され……やがては第二次世界大戦でドイツ軍の捕虜となり、連合軍によるドレスデン無差別爆撃を受けるピリー。時間の迷路の果てに彼が見たものは何か? 現代アメリカ文学の旗手が描く不条理世界の俯瞰図(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:★★★星3

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 ツヴィンガー宮殿、アウグストゥス橋、アルトマルクト広場など、エルベ川の真珠と称される古都ドレスデンでは、たまたま立ち寄った観光程度では、とても美しいという印象ばかりで、かつての悲惨な大空襲までに考え及ぶことはできませんでした。

 さて、本書では、主人公は、以下のふたつを俯瞰します。

(1)戦時中の友人の復讐のために射殺、誘拐されたトラルファマドール星の動物園での珍獣扱い・映画スターとの番い、ライオンズクラブ会長に選任、富裕のブス娘との結婚・贅沢な暮らし・二人の子供たち、飛行機墜落事故に遭遇しただ一人生き残り・同乗の義父の死とそれを聞きつけた妻の自動車事故死、父の狩猟中の事故死。

(2)敗残兵としての放浪・戦争捕虜としての、自らにも及びかねない死を前にした恐怖・幾多の悲惨な惨状。

 武器・食料・衣服の死人からの略奪、奇矯・性悪・低劣、悪徳・放恣、憐れみの心とは裏腹の十字軍の残虐、殺戮、馬鹿女、拷問具、女とポニーの性交写真、敵前逃亡の罪による銃殺、狂気、機関銃での威嚇、傷痍軍人、食べ飲み排泄する移送貨車、譫妄状態、皆殺し収容所、毒ガス室、二つに折れる認識票、キリストとはこの宇宙におけるもっとも強大な存在の息子、屠殺した人の脂肪から作ったロウソク、トラルファマドール人の誤実験により宇宙が消える、地獄、死体坑。

P105 自由意志といったものが語られる世界は、地球だけだったよ

P194 この小説には、性格らしい性格を持つ人物はほとんど現れないし、劇的な対決も皆無に近い。というのは、ここに登場する人びとの大部分が病んでおり、また得体の知れぬ巨大な力に翻弄される無気力な人形にすぎないからである。いずれにせよ戦争とは、人びとから人間としての性格を奪うことなのだ。

 このような俯瞰に対して、以下のとおりです。

・主人公のように絶望し、精神を毀し、廃人と化す極限状態は、人生の意味や目的、自由意思、幸福、生命、さらに、これらへの価値観や信条を求める宗教・思想・常識などを、破壊させ・投げ出させることで、人を獣と化すか、無気力や虚無的にさせかねない。

・現実、このようなきまぐれで・行き当たりばったりを生きなければならないなら、それで良いのか?

P142 いやな時は無視し、楽しい時に心を集中するのだ。

(2021.02) 

では、また!