キジしろ文庫

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ロバート・A・ハインライン「人形つかい」

あらまし

 アイオワ州に未確認飛行物体が着陸した。その調査におもむいた捜査官六名は行方不明になってしまった。そこで、秘密捜査官サムとその上司、そして赤毛の美人捜査官メアリは、真相究明のため現地に向かう。やがて、驚くべき事態が判明した。アイオワ州の住民のほとんどは、宇宙からやってきたナメクジ状の寄生生物にとりつかれていたのだ。人間を思いのままに操る恐るべき侵略者と戦うサムたちの活躍を描く、傑作冒険SF。(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:星1 

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 本書については、以下③④のように、自己本位や潜在する好戦的気質を刺激している作品なのだと感じました。

①個人の精神を強制的に侵し・喪失させる、人間の心をもたないモノ。主人公サムは、これに意図せずとりつかれた経験によって、支配者への奉仕の悦びと自己を否定された惨めさや怯え、罪悪感・絶望感を感じる(共産・全体主義的でもある)とともに、回復後には生理的嫌悪や恐怖、さらに憎悪を持ちます。

②このようなことから、ナメクジ状の地球外生物は、全世界から徹底的にたたきつぶされなければならない、ということになります。

③そこで、生き残るためには何でもアリの自然摂理のなかで、弱肉強食となる競争原理(戦闘)が前面に押し出されます。

④全体を通して見れば、自然淘汰の一過程が描かれている、ということなのでしょう。

P425  「人類は分裂し、人類同士争っている。支配者が人類を一体にしてくれるのだ」・・・平和と安全の約束と引きかえに、喜んで魂の武装を解いてしまう連中もいるだろう。

P433 人類はせっかく獲得したその獰猛性についての評判を持ちつづけなければならない。自由の代価はいつ、どこでも、そしてまったき大胆不敵をもって、突如襲いくる戦いに喜んで参加することにある。

 さて、以下は簡単なとりまとめです、参考まで。

・主な登場人物は、秘密捜査官のサム、実の父でもある機関のおやじ、サムの母親似で金星育ちですが、その記憶を失っている、秘密捜査官メアリの3人です。

 なお、サムとメアリはこの事件捜査をきっかけに出会い、結婚・ハネムーンまでこぎつけてます。また、事件途中、陰性を証明し、疑念に駆られた行動を受けないよう、着衣しない「上半身裸体計画」など、滑稽な対抗策も登場します。

・まず、3人は、未確認宇宙船の着陸現場の調査をしたところ、人間にとりついたナメクジ状の寄生生物を確認します(捕獲しますが、とりつく宿主なく寄生生物の支配者は死にます)。

・ナメクジによるなりすましやニセ情報が発生しているため、再度サムたちは、現場を押さえようと向かいますが、ナメクジはうまく立ち回ります。しかも、機関に戻ったサムたち捜査官のうちのひとりが寄生生物にとりつかれており、機関内を逃げ延びたあげくに、サムにとりついてしまいます。

・サムは逃亡の上、ナメクジの支配者の手先となってその増殖に励みます。ナメクジからすれば、人間は記憶や感情を利用・操作される装置に過ぎず、支配者となるナメクジは、直接のふれあいで情報を共有する同一性の連続する個体群というもののようです。が、サムはおやじによって助けられ、ナメクジの捕獲もできました。

・おやじは、寄生生物がどこから来て、その狙いは何かを探ろうと、志願したメアリーに代わった療養復帰後のサムに載せて、尋問しますが、「降伏の喜びをもたらすためにきた」などと宣い、得るところなく、寄生生物は拷問死してしまいます。

・人間が、防御一方で手をこまねいているなか、やがてミシシッピ川流域は、寄生生物が行う分裂繁殖によって、ほぼ制圧されてしまいます。やむを得ず通信施設への襲撃・奪還作戦が始まりますが、サムの偵察行動によって大敗北がわかります。

・しかも、ハネムーン最中にメアリへ取りついたり、犬などを介したり、ナメクジに寝返った裏切者を使ったり、目立たぬ姿になど巧妙さを増し、市中では恐怖からくる暴動や私刑も頻発します。さらに、ナメクジの衛生観念の欠如による伝染病の蔓延も危惧されるようになります(次の宿主に移り、人間は使い捨て)。

・他方、おやじは、メアリの過去や不時着宇宙船内のタンクなどから、寄生生物は、これまで、地球人を誘拐・人工冬眠させ、メアリたち金星入植者や金星人を侵略してきており、しかしながら、失敗していたことを推察します。

・さらに、メアリーの記憶復帰によって、寄生生物に襲われながらも、九日熱にかかったことで、寄生生物は数日で死滅し、ただ一人メアリーだけが生き残ったことがわかりました。

・そこで、いっせいの犬を介しての、交接を行う寄生生物どうしへの伝播と人間用の九日熱用抗毒素投与によって事態解決が図られます。最後に、寄生生物の撲滅ために土星の衛星タイタンへと、サムとメアリーは向かいます。

(2021.11)

CM 

 最後までおつきあい頂きましてありがとうございました。

では、また!