キジしろ文庫

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アーサー・C・クラーク「都市と星」

あらまし

 遙か未来、銀河帝国の崩壊によって地球に帰還することを余儀なくされた人類は、誕生・死さえも完全管理する驚異の都市ダイアスパーを建造、安住の地と定めた。住民は都市の外に出ることを極度に恐れていたが、ただひとりアルヴィンだけは、未知の世界への憧れを抱きつづけていた。そして、ついに彼が都市の外へ、真実を求める扉を開いたとき、世界は…。巨匠が遺した思弁系SFの傑作、待望の完全新訳版。(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:★★★星3 

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

  本書からは、自ら気付くことなく物理的に・社会的に、成長を阻んだり、選択の幅を狭めたりすることで、不自然さや不自由さを感じるなら、時には天邪鬼になることや、意見をしてくれる他者の大切さといった印象や感想をもつことができました(井の中の蛙大海を知らず、バカの壁、お山の大将など)。このようなポイントを、いくつか列挙すると、以下の通りです。

①内在する者には、第三者(主人公)や外部からの刺激なくしては、潜在的境界条件(思い込みのカベ)に、気づくことすら忘れてしまいかねないといった相対性

決定論的考え方に対して、立ち向かう勇気や情熱、好奇心や探求・冒険心といった自由意思の存在

③さらに創造や進化を求めようとする途絶えることのない強い生命力の存在

 さて、以下は、ザックリまとめてみたものです。

 

 まず、背景として、地球には、ふたつの世界が存在します。かたや、ダイアスパーは、中央コンピュータによって、メモリーバンクから、食事や日常の生活だけでなく、人間自身も繰り返し情報として保存・実体化(休息と再生)され、物理的にも社会的にも永久の安定・不変性を原子レベルで定められた先進技術共生世界、かたや、リスは、テレパシーによる意志の共有や自然と融合した、精神的にも愛情や個性豊かな暮らし(生死有)を成し遂げた、誇りある秘密の世界です。

 これらふたつの人類は、侵略者との激闘(相互不可侵の敗戦協定)と、その恐怖から異なる方向の進化を遂げることで、例えば、ダイアスパーでは不安や不満の感性・欲望すらも忘れるほどに完成してますが、その不死の有無の違いによって、相互の交流を絶っています。

 ここで、一方の中央コンピュータの設計者は、このような安定に伴う停滞や頽廃防止のために、無秩序や擾乱を起こす特異者を適宜送り込むこととしています。主人公はその一人ですが、繰り返しの生うちの初めての生として、登場したものです(中央コンピュータ設計者の意図?)。

 第一ステップとして、主人公は禁断を冒しリスを訪れますが、そこで偶然見つけリスへ連れ帰った(かつて訪れて以来待機していた)、大いなる者たちの宗教の主に仕えたロボットによって、リスによる記憶改変を逃れ、ダイアスパーへ戻ります。そこで、関係修復とその融合を、両者に説きふたつの人類を結び付けます。

 第二ステップとして、さらに地球外での知的生物とのコンタクトを目指し、ロボットらの宇宙船によって、その故郷の七つの太陽に向かいます。しかし、廃墟・怪物・宇宙船の残骸のみが残るだけでしたが、偶然出会った(人類がかつて創造した)知的精神体を地球へ連れ帰ります。

 第三ステップとして、その知的精神体によって、薄明の時代の人類の歴史(※)を明らかにすることで、地球の市民としては不安視していた、交流や知的精神体に対する恐れなどの精神的呪縛を解放します。

(※)人類による純粋知性体の創造という狂える精神が、銀河系を荒廃させる(のちに幽閉)→純粋精神体を再創造し銀河系を譲る→人類は破滅に瀕している銀河にある存在の呼びかけに呼応し離れる→その残留者が今に至ったもの

(2020.12)

では、また!