高野和明「ジェノサイド」(上)
あらまし
イラクで戦うアメリカ人傭兵と、日本で薬学を専攻する大学院生。まったく無関係だった二人の運命が交錯する時、全世界を舞台にした大冒険の幕が開く。アメリカの情報機関が察知した人類絶滅の危機とは何か。そして合衆国大統領が発動させた機密作戦の行方は―人類の未来を賭けた戦いを、緻密なリアリティと圧倒的なスケールで描き切り、その衝撃的なストーリーで出版界を震撼させた超弩級エンタテインメント、堂々の文庫化! (文庫本裏表紙より)
よみおえて、おもうこと
雑感・私見レビュー:★星1
《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》
1/2です。本書は、現地コンゴを中心とした、アメリカ、日本の3つの局面における人物らの戸惑いや不安と期待、自己中心の傲慢さと残虐性を示しながら、事態に翻弄されていく姿が、テンポ良く進み退屈しません。おそらく、この3つが、下巻でまとめられていくのでしょう。「獣欲」がどう決着するのか、楽しみです(性欲・食欲・獣欲)。
さて、上巻について、ざっと記しておきます。
具体には、武装勢力が虐殺しあう内戦状態にある、アフリカのコンゴ東部のジャングルで生活するピグミーに、DNAの突然変異によって、新たな人類が誕生し(3歳)、これをフィールドワーク中の人類学者ピアースが発見・友人へ連絡した、ことからモノゴトが始まります。
ハイズマン・レポートによれば、超人類とは、複雑な全体をとっさに把握するなど、知的にも道徳的にも優れているもののようです。このような現人類には制御不能の超人類の登場への対応に、現人類との生物的地位が競合してしまうため、抹殺すべきものと判断されています。
・アメリカ政府:情報を察知し、安全保障の脅威・現人類の絶滅可能性を危ぶみ、自己都合しか考えず一方的に強硬措置(超人類虐殺)にでます。なお、ここでは、アメリカは、テロ容疑者の拷問代行を行わせているという戦争犯罪人でもあります。
・イエーガー達傭兵4人の特殊部隊:超人類と致死性ウィルス感染のピグミー40人だけではなく、自分たち含めての殲滅作戦だったことをピアースと超人類によって知らされ、超人類らとアフリカ脱出を開始します。当然、アメリカによる攻撃対象に転じられます。なお、イエーガーの息子は肺硬症で余命1カ月の状態です。
・古賀研人:ピアーズと顔見知りの父の急死後、パソコンと実験室を引き継ぎ、途中、父の不倫相手と思しき坂井友理の接触、CIAによる追及と逆に協力者の援助を受けながら、不治の肺硬症の創薬完成とアメリカ人へ譲ることを託されます。なお、イエーガーたちの反目にあわせて、アメリカから、テロリスト手配されてしまいます。
・以上をはじめ、イエーガーらの選定、コンゴ・日本間の暗号通信など、すべて超人類の筋書きによって、モノゴトは動いているようです。
以下、作中引用。
P112「文系の社会では嘘やごまかしの上手い奴らが出世するが、科学者は一つの嘘も許されない」
P137「他人を傷つけても平気な人間と、そうじゃない人間がいるってことだ」
P288「社会生活の中に視られるあらゆる競争の原動力は、たった二つの欲望に還元されるようだった。食欲と性欲だ。他人よりも多く食べ、あるいは貯め込み、より魅力的な異性を獲得するために、人間は他者を貶め、蹴落とそうとする。獣性を保持した人間ほど、恫喝や謀略といった手段を用いて、組織と名付けられた群れのボスにのしあがろうとする。資本主義が保証する自由競争は、こうした暴力性を経済活動のエネルギーへとすり替える巧妙なシステムなのだ。法で規制し、福祉国家を目指さない限り、資本主義が内蔵する獣欲を抑え込むことはできない。とにかくヒトという動物は、原始的な欲求を知性によって装飾し、隠蔽し、自己正当化を図ろうとする欺瞞に満ちた存在なのだった。
P323「残念ながら、我々は不寛容だ」
(2020.10)