キジしろ文庫

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ジェイムズ・P・ホーガン「造物主の選択」

あらまし

 人類は土星の衛星タイタンで驚くべき異種属と接触した。彼らは意識を持ち自己増殖する機械生命で、地球の中世西欧社会そっくりの暮らしを営んでいたのだ。人類との接触で新たな道を歩み始めた機械人間たちだったが…大きな謎が残されていた。彼らの創造主とは何者なのか?コンタクトの立役者、無敵のインチキ心霊術師ザンベンドルフが再び立ち上がる!『造物主の掟』待望の続編。(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:★★★星3 

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 本書からは、以下三点です。

①デニス・E・テイラー「われらはレギオン1 AI探査機集合体」のなかの一文の「同居するには、銀河系は狭すぎる」を、思い出しました。なぜなら、地球人は、100万年前にタイタンに辿り着いた、人格を転写した異星人マルウェアとそのAIとの、ルールなき弱肉強食の生存競争を挑まれ、勝ち残らなければならない事態に追い込まれたからです。

②本書では、その際に、主人公のザンベンドルフが、偶然つかんだ千載一遇の機会をチャンスに変え、事態は好転したのだろうと捉えました。なので、直観力だけではなく、思い悩み、勇気を奮うといった、松下幸之助「道をひらく」”絶対の確信”を、思い起こしましたし、また、偶然の機会を見過ごさず試しにいろいろやってみるといった確率論的思考も大切なのかもしれないと、感じました。

③それから、物語中では、以下三つの社会が描かれます。

 ・西欧中世社会のような、封建制と信仰による専制支配のロビアの社会

 ・利潤追求型の経済による権力志向性の現地球社会

 ・富や財が広く行き渡り、人を出し抜くことに刺激を求めるタールの社会

 これに対し、個人の自由と平等を求め、合理的精神や論理的思考といった理性に価値を置き、そのための行動によって、劣勢を挽回するストーリーが展開していきます。その根底には、むしろ、自由はまやかしといった、以下があるのだろうなと思いました。

・私たちは、物欲・金欲・権力欲に伴う富や財、地位・名声といった日常・世俗の価値観に重きを置き、刺激を求め退屈を満たす娯楽・道楽にも関心を向けがちです。

・しかしながら、授けられた天職を謙虚に精励刻苦、勤勉精進し、世のため人のためにつくすようでなければ(略奪や搾取、虐待)、そのような人には救いの手(悪霊退治)を差し伸べることも、世のため人のためなのかもしれません。

 

 さて、以下は簡単なとりまとめです、参考まで。

 本書に登場する、異星人やGSEC幹部たちの、イヤがる人やモノゴトを自分の思い通りに動かすことで悦びを感じる傲慢なエゴや嗜虐心は、満たされることのない所有と支配欲に自覚なく支配されており、とてもアグレッシブ(敵意・害意をもって攻撃をけしかける、侵略的)です。

 とくに、異星人は、物欲や金銭利益に伴う競争本能の満足という段階を既に越え、執拗で狡猾、不信感と猜疑心・敵愾心に満ちた闘争癖をもち、腹の探り合い、挑発や煽動・威圧、欺き・罠・囮・裏切り・騙しをへたうえで、だしぬき・やりこめることが、刺激であり活力源のようです。本来行うところの仕事や商売がスッカリ置き換わっています。なお、精神的な暴力はなさそうですが、このように衝動を制御できないところに、稚拙さを感じます。

その1 GSECや前王と前大僧正

 はじめに、GSEC幹部ですが、彼らは、地球社会や産業を一変させてしまう、ロビアの卓越した科学技術力や工業力を独占することで、日本や東アジアに移りつつある地球の政治経済力を取り戻そうとします。また、市民や世論の支持なく、権力構造を手中に収めることは難しいため、ロビアの生産植民地化を進めるうえでは、ロビアへの内政干渉とはならないよう、以下を仕組みます。

<GOAL>GSECには服従し、ロビア内では強制的実権力をもつ傀儡政権の樹立

 ↑ 前王と前大僧正の復位復権をウラから支える(これにより、見返りを求める)

 ↑ 大兵力派兵によるロビアの威嚇・制圧(その実、現ロビアに展開する、ロビア独立派兵力の抑え込み)

 ↑ ロビア政情不安(弾圧を行うなどザンベンドルフたちに操られている、ロビアのリベラルな政権への内紛)に伴う地球人の保護や秩序維持という派兵名目を成立

 ↑ 原理主義者(不死性といった地球人の神秘性の反証や、ライフメーカーへの冒涜・異端によってその怒りをかった証しとして、遺体を利用した説教活動)による地球人(遺体収容目的)への襲撃事件がロビアで発生

 ↑ ロビアで偶然起きた地球人の転落事故死とその遺体の行方不明

<START>旧体制やライフメーカー信仰といったロビア内の原理主義復活のたきつけ

 

その2 異星人と異星人AI

 太陽系から一千年光年離れた惑星タールのボリジャンは、母星コブの超新星爆発を、植民によって回避するため、世代宇宙船建造を急いで計画します。しかし、水や空気、重力といった環境や食糧自給に適した惑星の存在やそのための航行期間も見込めず、その実現は不可能なことがわかってきます。

 そこで、三つの研究にかかわりのあった12人とAIは、自己複製機能を持つ自動工場建設という探索船のデータ保存領域へ送ることが可能となり、タールを出発します。

 ・不死性研究のためだった人格転写(意識と個性を形成する神経配列の分子回路脳への移植変換技術)

 ・改良型ロボコン身体技術

 ・再活性化技術

 ところが、超新星連鎖反応の最後の巨大恒星によって、探索船内プログラムの消失や汚染が発生しました。このため、タイタンはボリジャンには環境不適合にもかかわらず、自動工場の建設が開始されます。ここで、ロボット製造時の再度のエラーをはじめとしたコードの変異や淘汰による進化がおこり、機械知性による生態系が形成されることとなります。が、12人とAIは未活性・保存状態のままです。

 

その3 ワイナーバウム

・科学者ワイナーバウムは、タイタンの制御プロセッサー内の遺伝ソフトウェアにあった、未制作機械の複雑・巨大で自己複製機能をもつコードを発見します。研究へのいらぬ干渉を避けようと、またザンベンドルフたちへの妬みももっていたため、軍が裏工作中であるロビアの旧体制派の機械人に麻酔をかけ、極秘のまま、その身体によって異星人のコード再活性化に成功します。

・これは、GSECによる、安全という名目のザンベンドルフたちの帰還命令に残留嘆願を唱えたことで、現地監理のNASOとのつながりが強化され、GSECと軍の裏工作にとっては研究支援の名目がたつことから、ワイナーバウムは自由にコトを運べたわけです。

・ワイナーバウムは異星人とのコンタクトをとるうちに、異星人持ち前の誑かし(宇宙の究極の真理を探求する仲間にとって、武装船によるタイタン制圧=植民化が脅威であること)にあい、地球リンクのアクセス権を与えてしまいます。これにより、地球に、増殖型ソフトのスマート爆弾が送りこまれます。地球上は、システム崩壊によって、武装船出航だけでなく、あらゆる産業や社会が大混乱となります。異星人は、地球からの武装船をとめ、その間に、機械人やその組立工場を再建し、自らの身体製造といったタイタンの制御だけでなく、地球をはじめとした星系への襲撃を目論んでいます。

・ザンベンドルフは、二重駆け引きというワイナーバウムの危険な動向に気付きながらも、その知的生命体発見の確証を得ることができません。このため、無線通信可能な機械人にワイナーバウムの施設調査を依頼します。しかしながら、異星人のタイタン改変を、異端の報いや地球人との親交のせいにする機械人や前王・前大僧正たちによって、拘束されてしまいます。そして、復位・復権のため、ライフメーカーが引き渡した敵として公開処刑に処されます。ここで、電波源チェック中の異星人AIが通信に入り込んできたところで、ギリギリ一命をとりとめます。

 

その4 この後、二転三転しながらも、事態が収拾していきます。

・異星人AIは、一命をとりとめた機械人から、本物の超自然的奇蹟を起すザンベンドルのことを聞きつけ、興味を感じ、早速コンタクトします。

・そこで、直観力をもたない異星人AIは、ザンベンドルフのイカサマのテレパシーの実演を、時間や空間、物質界の領域を凌駕する高次の精神の力(精神の力で情報を得、精神の力で物を動かし、物体を非物質化もできる)として受け止め、ザンベンドルフを地球古代から伝わる秘儀を使いこなすマスターとして崇めます。さらに、その教えを学ぼうと従い、そして、その誠実さを得るのに必要な償いとして、地球上に蔓延しているウィルス除去ワクチンを送り、地球は落ち着きを取り戻します。

・異星人AIは、タイタン内に多数の複製と相互接続を繰り返していた異星人たちへの決別を告げますが、消去されそうになったことから、激しい内戦状態が起きます。これにより、タイタンじゅうの工場や機械群の爆発や暴走・攻撃に至りますが、精密さよりも進化によって得られた狡猾さに勝る異星人がAIを制圧します。

・ザンベンドルフたちは、機械人を見捨て、不名誉な全面撤退とタイタンへの核使用による完全抹殺に進もうとします。しかし、ここで、進化の過程で、機械人たちに後発的に獲得した免疫システムが作動したことで、異星人の脅威を消滅させます。なお、異星人AIは、免疫反応から地球リンクに退避していたことから残存しますが、身体を与えられリアルの体験に満足したことで、その後のタイタン派遣団のために働くこととなります。

 

P292「・・・しかし、理性の支配を妨害するものも多い」「所有欲。ほかの存在を奴隷にする権力欲。劣った精神。知識と都市の破壊者」キュリロスが例をあげた。

P364「・・・ルミアンの中には、あなたがたのように所有を価値とし、他人に労役を課することによってのみ繁栄をはかる者もある。そしてわたし同様、ロビア全体がカーソジアにつづいて自由への道を歩むことを望む者もいる。問題はそこにあるのです。前者はその便宜のためクロアキシアに専制政治を復活させようとしているだけで、機械人同士の個人的な嫉妬や反目などにはまったく関心がない。王や僧侶をどう処遇するかも考えていないーその彼らが、ライフメーカーの僕がたがいに踏みにじり合うことを、どうして気にするはずがありましょうか?それに対し後者は、どちらの側を誉めることも虐げることもせず、ほかの機械人と同じように扱うのみです。さ、お望みなら審問官をお呼びください。・・・」

 (2021.12)

CM 

 最後までおつきあい頂きましてありがとうございました。

では、また!