キジしろ文庫

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西尾維新「クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い」

あらまし

 自分ではない他人を愛するというのは一種の才能だ。他のあらゆる才能と同様、なければそれまでの話だし、たとえあっても使わなければ話にならない。嘘や偽り、そういった言葉の示す意味が皆目見当つかないほどの誠実な正直者、つまりこのぼくは、4月、友人の玖渚友に付き沿う形で、財閥令嬢が住まう絶海の孤島を訪れた。けれど、あろうことかその島に招かれていたのは、ぼくなど足下どころか靴の裏にさえ及ばないほど、それぞれの専門分野の突出した天才ばかりで、ぼくはそして、やがて起きた殺人事件を通じ、才能なる概念の重量を思い知ることになる。まあ、これも言ってみただけの戯言なんだけれど・・・第23回メフィスト賞受賞作(文庫本カバーより)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:星1

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 本書は、世界屈指の天才たちを集めた絶海の孤島で起きた連続密室斬首事件に、大学生の主人公いーちゃんとその友人の玖渚友が、事態を解明するライトノベルミステリーです。

 とくに、ミステリーとしては、表題のとおりのトリックなどが用意されているわけですが、ベタな構図と萌えキャラ、表面的で軽々しい情景・心情などの描写や会話、あからさまな伏線の置き方やミステリー展開など、くどいくらいのデフォルメ感があります。このため、個性的など輪郭が明瞭で特徴が際立っているため、読みやすさはあると思います。

 しかし、「戯言」をはじめ、真剣さや厳しさ、意欲などの覚悟に欠け、すべてがふざけている・はぐらかしている・そしてもてあそんでいて、だからおもしろいといった、グレてはいないが、怠惰や卑屈さを含んだ無力感・閉塞感、あるいは拗ねているなどの心のゆがみを感じます。また、あえて、登場人物を良く見たとしても、すかしているけど、生真面目さが痛々しいく、また優しいばかりで、気丈さや嫌らしさもない、複雑、矛盾、汚れ、不条理、不安定な現実に対して、背伸びしている幼さがあまりにも頼りなく、もどかしさを感じてしまいます。

 さて、最後になりますが、平板的でどこまで行っても、華がない・薬でもないなどといった全体印象をもちつつ、作中の気になった言葉を並べると、「劣等感」「共依存」「制約のない集団は、集団ではない」「信じるとは、裏切られても後悔しないこと」など、これって、コアな仲間を誘うサブリミナル?と思ったところで、とうとう引いてしまいました。(2020.05)

では、また!