キジしろ文庫

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角田光代「トリップ」

あらまし

 普通の人々が平凡に暮らす東京近郊の街。駆け落ちしそびれた高校生、クスリにはまる日常を送る主婦、パッとしない肉屋に嫁いだ主婦―。何となくそこに暮らし続ける何者でもないそれらの人々がみな、日常とはズレた奥底、秘密を抱えている。小さな不幸と小さな幸福を抱きしめながら生きる人々を、透明感のある文体で描く珠玉の連作小説。直木賞作家の真骨頂。(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:★★★星3

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 駆け落ち、クスリ依存、専業主夫、同居、ストーカー、離婚、いじめ、行き遅れ、不倫、祖母の死といった満たされない日常の生活が語られる10の短編集。

    みな、人生の失敗を経験しつつ、傷つくのを恐れ、それを受け止められずにグズグズし、次の行動に進めないでいる。このような、願いや思い、希みがかなわず、不条理にもがき苦しむ、恨み、蔑むことは自然なことだと思う。また、このため、現実になじめず、どこか依存した他人事になっている自分の人生となるのも、もっともだと思う。

    しかし、他人の気持ちなんて容易にはいじれないのに、ついそう思ってしまう、思い上がった身勝手な自分の醜さに向き合わせるような、はたと気づかせるところがある。それが「ゆるし」や「救い」であり、現実に前を向けることができるのだと思う。ここで、ちょっと安堵できたり、肩の荷を下ろせたりできるところが良かった。

    正直、意外にも、ふと思いを巡らす良い本でした。(2020.01)

 では、また!