キジしろ文庫

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森博嗣「キャサリンはどのように子供を産んだのか?」

あらまし

 国家反逆罪の被疑者であるキャサリン・クーパ博士と彼女の元を訪れていた検事局の八人が、忽然と姿を消した。博士は先天的な疾患のため研究所に作られた無菌ドームから出ることができず、研究所は、人工知能による完璧なセキュリティ下に置かれていた。
 消えた九人の謎を探るグアトは、博士は無菌ドーム内で出産し、閉じた世界に母子だけで暮らしていたという情報を得るのだが。 (文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:★★★星3

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 WWシリーズの第3巻目です。今回は子孫や生命が題材です。本書では、近未来、人間は人工細胞によって長生きできるようになりますが、その影響で子供を産めなくなってしまいます。このように長生きによって、人間はより機械に接近し、他方、AIの発達やヴァーチャルのリアル化によって、情報化が現実世界に広がります。これにより、人間を取り巻く電子の世界と現実の世界との境界が曖昧になってきてしまいます。なので、人間の将来(出産、子ども)世界が不透明となっているという問題と、それに応える一解答が示されることが、ポイントとなっています。

 本書は、好みが別れますが、文芸的な心情や情景の描き方とは趣を異にしています。それは、数理学的な原理の応用といった論理と、その展開や導き方の必然性や客観性が背景にあるためで、とても冷たい印象を受けます。とくに、常識にとらわれない異次元のアウトプット、ソリューションの提示と、その明快さや鮮やかさなどが強く残ります。

    また、やる気がないわけではありませんが、妄想・夢想、遊び心のある好奇心や探求心といった、押し付けがましさのない謙虚さや無欲さが、潜在的に感じられます。それは、他者への敬意や畏れの表れだったり適度な距離感があるため、素っ気ないというよりも、むしろ好意的なものに思えます。

 総じて、小手先の対症療法とは無縁の、無から有を創りだす着眼点、ユニークさ、発展性など、十二分に堪能できました。

では、また!