キジしろ文庫

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白石一文「ほかならぬ人へ」

あらまし

「ベストの相手が見つかったときは、この人に間違いないっていう明らかな証拠があるんだ」…妻のなずなに裏切られ、失意のうちにいた明生。半ば自暴自棄の彼はふと、ある女性が発していた不思議な“徴”に気づき、徐々に惹かれていく…。様々な愛のかたちとその本質を描いて第一四二回直木賞を受賞した、もっとも純粋な恋愛小説。(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと 

 雑感・私見レビュー:星1

 裕福な家庭、恵まれた職場で何の苦労や悩みもなく過ごし、愛情や結婚に関して、他人まかせのようにして、自分のこととして現実感をもって生きていない、そんな主人公が劇的壮絶な人生を進むなかで、傷つき、つまずき、考え、行動し、自覚をおぼえる、ふたつのお話です。

 たとえば、忘れられない別れた相手と刃傷沙汰となるキャバ嬢との結婚と離婚、気のあった許嫁の交通事故死、肺がんバツイチの女性上司との結婚と病死、緊縛癖バツイチの男性上司とのかけもちと別離、愛人問題を抱える両親など。

 全体的には、振り返るべき情景や心情もなく、ぎこちなく・ありふれたストーリー展開や唐突なセリフ内容など、刺激的でドラマチックにするほど、逆に冷めてしまう・かわいた・しらけた印象を受けてしまいました。

 また、本書は恋愛偏重のため、よく言われる結婚はスタート、ゴールではない、お互いがつくっていくものといった点がスッポリ抜けています。このように、多くの人が求めているとはいえ、苦労しない「ベストの相手」といったチープなテーマ(ここでは、「匂い」「初めて」といった直感的なもの)には、その甘えや驕り、自己への執着を見えないところでくすぐってしまうところが良いのでしょう。

  そのようななかでも「自分なんかあってもいいが、なくてもいい」「自分に裏切られながら生きていく」など、挫折や喪失といった不条理を経験して、孤独や虚しさ、人生への悲観などを、本当の意味でかかえこみ、あがなえる人間に成長していくところが表現されている(と思いたい)のが、救いだったんじゃないかと思いました。(2020.03)

 では、また!