キジしろ文庫

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森見登美彦「夜は短し歩けよ乙女」

あらまし

「黒髪の乙女」にひそかに想いを寄せる「先輩」は、夜の先斗町に、下鴨神社の古本市に、大学の学園祭に、彼女の姿を追い求めた。けれど先輩の想いに気づかない彼女は、頻発する“偶然の出逢い”にも「奇遇ですねえ!」と言うばかり。そんな2人を待ち受けるのは、個性溢れる曲者たちと珍事件の数々だった。山本周五郎賞を受賞し、本屋大賞2位にも選ばれた、キュートでポップな恋愛ファンタジーの傑作。(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:星1

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 本書は、複雑に入り組み行ったり来たりしており、しかも4話にわたってです。なので、いつもの主だった概要は、書いても読んでもわからず、混乱を招くだけになると思います。したがって、今回は、本書の特徴として、以下をあげておくことにします。

・春の木屋町先斗町の夜、夏の下鴨神社の古本市、秋の学園祭、蔓延する風邪など幻想的で奇矯妖美な描写や立てつけ。

李白氏をはじめとした仰々しいまでの個性・事情ある人たちの百家争鳴と混交。

・清楚で凛々しく大胆かつマイペースな大学のクラブの後輩となる女性への、主人公の思いがなかなか届かず、すれ違っていくじれったさやもどかしさと、めぐり合う人たちとのにぎにぎしくも、くだらないやりとりのあほらしさ。

・無関係と思える偶然の出会いや場のいくつもの連鎖が、終には一本の線が繋がり辿りつくハッピーエンド

 さて、素敵な恋愛ファンタジーなのですが、次のようにも見えてしまいます。

 自分は傷つくのは怖いけど想いはとげたい、とてもめめしく卑屈でサイテーな自己チューの先輩、あれがほしいこれが好きと自分の欲求の満足に任せるままのサイテーな自己チューの彼女、このような二人が、相手を相互に狡猾に誘い込み・挑発し、隷属関係を築き上げ、気がつかせることもなく、脱け出すこともできなくさせてしまう。やがて、このような二人は、拗ねる、泣きわめくなどおもちゃを欲しがる子ども同様に、手に入れた物は、すぐに飽きてしまう。

    そういった誰にもある安直で生物的な利己心をあおる琴線をついている、その一方で、自身の優越感を満足させるなど、作品を通じてこっそり悪意を潜ませている、また、退廃の道行きはせつなく苦しくも甘美で狂わしい、つい引き込まれてしまうなあ、と感じます。

 ということで、せっかくのファンタジーなんだから、素直に受け止めるも良し、いろいろ想像して楽しむのも良し、なのだと思います。(2020.02) 

では、また!