キジしろ文庫

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瀬尾まいこ「図書館の神様」

あらまし

 思い描いていた未来をあきらめて赴任した高校で、驚いたことに”私”は文芸部の顧問になった。・・・「垣内君って、どうして文芸部なの?」「文学が好きだからです」「まさか」・・・清く正しくまっすぐな青春を送ってきた”私”には、不思議な出会いから、傷ついた心を回復していく再生の物語。ほかに、単行本未収録の短篇「雲行き」を収録。(文庫本裏表紙より)

よみおえて、おもうこと 

 雑感・私見レビュー:星1

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 本書は、清く正しく頭が筋肉の体育会系女子高生だった主人公が、同じバレー部員の自殺によって、非難・無視・自責・罪悪感を募らせ、地元から避けるかたちで大学を選び、高校講師及び文芸部顧問となったお話です。このように、主人公は、人生に挫折し、孤独を紛らわす不倫もするなどグレたり・やさぐれたり、投げやりで醒めているなど、トラウマを引きずり・囚われ、実のところの存在が外部にはありません。しかし、文芸部で垣内君と過ごす中で、文学という経験のない世界へ徐々に魅了されていったり、また立ち位置を崩さず距離感を保ち、共感し・尊敬するといった対等な人間関係を身につけていったりと、現実に立ち、自己を再生し、成長します。その際、不倫は主人公によって解消します。垣内君は卒業し、また、自殺した親からも手紙をもらいます。そこでは、思いがひとつになるのではなく、それぞれの思いを遂げていくことをたんたんと讃え合い、自らも自覚します(外部の世界の国語教師として)。

 さて、まずは、全体を通してですが、自分や周囲による、自分が原因かもしれないという憶測の自殺に苦悩し進路も歪んだ、こんな不条理のなかでは、人生投げやりにもなるでしょうし、立ち直りは難しそうです。なので、恵まれた環境や巡り合えた人たちとその関わりへの感謝の意が、まず大切なものだろうと感じました。

 次に、いいことずくめのハッピーエンドでほんのりゆるい現実離れのお話だし、都合の良い一本調子にも思えてしまうので、こころの執着や傲慢さといった人間のいやらしさなどを自ら振り返る、なんて転機となるツッコミもあってもいいのかなあと感じました。

 たとえば、自分が正しいと思ったところで、既に他人を見下している、そのような毒々しい対人関係に持ち込むことなく、さらりと凛とした距離感のある関係に、徐々に変化していく空気感は、物足りなさなど是非の分かれるところかなあとも思いました。

(2020.05)

では、また!