キジしろ文庫

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ジョージ・オーウェル「一九八四年」

あらまし

 “ビッグ・ブラザー”率いる党が支配する全体主義的近未来。ウィンストン・スミスは真理省記録局に勤務する党員で、歴史の改竄が仕事だった。彼は、完璧な屈従を強いる体制に以前より不満を抱いていた。ある時、奔放な美女ジュリアと恋に落ちたことを契機に、彼は伝説的な裏切り者が組織したと噂される反政府地下活動に惹かれるようになるが…。二十世紀世界文学の最高傑作が新訳版で登場。(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと 

 雑感・私見レビュー:星1

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

  本書は、思想やイデオロギー(反共・ファシズム全体主義)とか、悲恋とか、戦後直後冷戦時に書かれたディストピアとか、捉え方はさまざまだし、その意見や考え方も大きく異なるでしょう。第三部までのうち第一部がかなりもたつきますが、独特の思い切った世界観があるので、とても楽しめました。以下、要点を絞って記します。

・本書では、発展や成長、衰退といった変化を望まず(強化は別)、時間を止めることで(記憶や記録改竄、思考中止や二重思考)、現在を永遠に繰り返す、これでいい訳がない、閉塞した権力中毒社会が描かれています。

・このための、自由と平等(⇔強制・監視・密告・粛清、カースト)の否定、人間性や人格の尊厳(⇔物資・行動・情報・言語思考の制約や反セックス)の蹂躙、常に他者との敵対・不信関係構築(二分間憎悪)などに目が行きます。

・結局、平たく言えば、「自分が正しいと思うことによって、いつしか人を見下げる冷たさが、心の中に育ってきたのではないか」というこなのだし、逆に言えば、「義人なし、一人だになし」なのでしょう(「氷点」「塩狩峠三浦綾子 引用)。知らぬ間に党に弄ばれてしまった(洗脳後には党に従うことの悦び)に過ぎない一市民の反乱分子の主人公ではありますが、それでも愚かで醜い欲望に抗えるものが、大切なことなのでしょうと感じました。

・また、リアルの政治や社会の世界に対しては、昨今の場合、AIやVRといった電子の世界の拡がりや、人工細胞などの生体そのものから精神面での変化といった、対象の境界条件を変えるところから目を向けて考えてみるのも良いかなと思いました。(2020.08)

 では、また!