キジしろ文庫

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マーサ・ウェルズ「マーダーボット・ダイアリー」(上)

あらまし

 かつて重大事件を起こし、その記憶を消されている人型警備ユニットの“弊機”は、ひそかに自らをハックして自由になったが、連続ドラマの視聴を趣味としつつ、保険会社の所有物として業務を続けている。ある惑星資源調査隊の警備を任された弊機は、さまざまな危険から顧客を守ろうとするが。ヒューゴー賞ネビュラ賞ローカス賞3冠&2年連続ヒューゴー賞ローカス賞受賞作。(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:★★★星3 

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

  1/2です。本書は連続する2話構成です。主人公は、内気で陰気で卑屈な非リア充の弊機さんです。現状のコメントとしては、以下の通りでしょうか。

・電子の世界に知性を置き、そこから見たリアルの世界の人間の不可解な判断・感情・行動、その一方、弊機自身の次第にリアルになじんだり、葛藤したりする変化(妥協、気持ちを動かされるなどをはじめ、気紛れや思い付き・無茶、業や欲などの自己への執着、不条理を受け止める、対人関係などの論理的思考の知性とは相いれない感性を身に付けていく)?。さて、本書をサラッとすくえば、以下の通りでしょうか。

1.「システムの危殆」

・主人公の弊機は、元々、人間を保護、助けることを目的に、高度な知性と武器や身体能力を備えた、有機と非有機からなるユニットとして、警備契約という制限(統制モジュール)をかけることで、その履行と契約の相手方との限られた関係を築いてきています(人間+ボット=気まずい、居心地が悪い(殺人ボットだと知っているため)と感じる)。弊機は、たとえハッキング後であっても、雇用関係の維持と契約の履行に忠実であり、むしろ、イヤがりながらも隊の一員として行動を人間とともにし、わずらわしい感情のやりとりをも受け入れられるその自律性・順応性によって、無力化も行う・システムダウン寸前などを経て、プリザーベーション隊の命を救い難を防ぎます。以下は作中抜粋のうえ加筆。

(弊機):「良く話し合おうなどの気遣い、気持ちを問われるのは苦痛、恐怖」「無遠慮な視線に気づかないフリをする」「威圧的とも受け取れる欲求を抑える」「裏切られた気分になる・好感をもつ」「あなたのことは好きではありません。しかし、ほかのみなさんは好きです。」「現実に感情を動かされるのは不愉快」

(人間):「あいつを人とみなすべきよ」「自分たちを助けてくれる誰かとしてあなたを見たいのよ」「みんな心配してるのよ」「構成機体へのひどい扱いへの不満による人間への反抗はないのか」

・その結果、メンサ―隊長によって、警備会社の備品としての雇用関係から、社会の一員としての対等な人権を与えられますが、逆に、指示命令の束縛や介入のない自由な選択や判断をする生き方(対人関係)に戸惑い・不安を覚えてしまいます。また、暴走の可能性を払拭しなければ、メンサ―達と一緒にはいられませんでした。以下は作中抜粋のうえ加筆。

(弊機):「欲求は持たず義務も必要も感じない」「やりたいことがわからない。だけど、やりたいことを誰かに教えられたり勝手に決められたりするのはいやなのです」

2.「人工的なあり方」

・そこで、ルーツと思われる大量殺人事件現場を訪れますが、原因は、弊機の暴走によるものではなく、採掘作業妨害のためのマルウェアが施設全体まで異常を起こさせたものだとわかりました。しかし、そこでは、慰安ユニットが、自分たちの意志で行動し、その身を挺して、弊機以下を守ろうとしていたこともわかりました(なので、雇用主の人間を憎み、逃げ出したい慰安ユニットの統制モジュールを毀し、解放してあげました)。

・このように、電子界での知性たちどうしや人間に対する興味、好悪や信頼などの相違と行動が特徴的に表されます。

(ART):結びつきを強めるARTに対し、弊機はひきこもりたがりますが、弊機と一緒に連続ドラマを見て、怖がったり・茫然となったり。弊機に興味を持って、いきさつを聞いたり。過去の事件の原因(ハッキング)を確かめようとする弊機に対して外部要因についてアドバイスしたり。暴走ユニットとして識別されないよう形態変更を施し人間に近くしてくれたり。人間との接触にも基幹システムとして支援してくれたりと、信頼の関係が少しずつ高まり、弊機をバックアップしてくれます。

 (弊機):「娯楽に逃避し対人恐怖症」「人間は好きだが、娯楽フィードを通じて観る方がいい。その方が干渉されず安心だから、お互いに」「お願いと言われて、それを断るのは心苦しく感じました」「またため息をつきました」「怒っています」「うつむいて体を丸めました。胎児の姿勢をとりたい気分です」「あなたを放置するわけにはいかないわ、と言った言葉に胸を打たれました」(2020.09)

では、また!