キジしろ文庫

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ジェイムズ・P・ホーガン「内なる宇宙」(下)

あらまし

 ある日突然人格が他者のものとすり替わってしまう―いたるところで奇異な現象が多発するジェヴレン社会に、ハント博士らは直面した。人格変容の起こった者はアヤトラと呼ばれ、新興宗教の活動家となるか、発狂してしまう。だがそれは精神異常の類ではない。人格はコンピュータ・ネットワークを通じて別の宇宙から送り込まれてくるという。ジェヴレンを狙う“内宇宙”とは何か?(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:星1 

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 本書は、未開の地であっても、対等に人権を尊重し、力による専制支配といった権力構造を打破したうえ、自由・合理主義へ開眼させる、勧善懲悪モノです。

 さて、以下は、備忘のための簡単なとりまとめです、参考まで。

(1)情報宇宙であるエントヴァース

 ジェヴェックスコンピュータでは、マトリックス内の素子の挙動に伴って、重力や斥力など物理現象が発生し、やがて身体を持たない知性(自我を確立)となって進化した情報宇宙が、偶然にも存在しました。

 しかし、そこは、時間や移動に伴ってモノの形や長さが相対的に変わり、容易に三態が変化します。そして、魔物が棲み、念力や魔法(知性がシステムと調整することで生じる)が使われ、さらに天変地異は頻発し、秩序は乱れ、貧しく、不確定・予知不能の不安定な世界(エントヴァース)です。

 そこで、ハイペリアの神託(ⅤRなどによる外部にある意識、たとえばユーベリアスとの交信)を信じ、偽りの預言者たる異端者を捕らえ、霊気の流れを捉えて昇天する(エント人の人格情報パターンの外部宿主への移転(エント人は消滅する))ことを望むといった、祭司らによる神権政治によって統治がなされています。

 なお、ユーベリアスと交信するこの植民斡旋業の親玉の祭祀は、大覚醒後は神々として入ることを約束されていました。

(2)主なスジ

・ハントたちが追っていたバウマーは、ⅤR中毒の末、ニクシ―同様の人格の乗り移り(=覚醒)をしてしまい、ジーナの行方の手がかりが掴めません。しかし、ジーナは、ユーベリアスたちが、ジェヴェックスを使い、記憶の書き換えと二重スパイ化をされ戻ってきます。

 しかし、サンディの進言によって、ハントたちはジーナの異変に気づくことができ、諜報行為は阻止され、ジーナは自分を取り戻します。ただし、記憶の修復はできません。

・ハントたちは、ジェヴェックスの限定処理能力を上回る情報量があるにもかかわらず、システム装置がなく端末にすぎない制御センターという事実や、情報宇宙には惑星一つ分のシステム規模が必要という推定によって、ユーベリアスは、惑星アッタン内部のデータ処理マトリックスを乗っ取り、ひいては宇宙侵略を企てている、と推察します。

・ここで、ユーベリアスの息のかかった警察副署長らによる、ジェヴレン独立と民族自決を掲げたクーデターが発生し、制圧してしまいます。ハントたちは辛くも逃げ切り、ジェヴェックス復旧(大覚醒=大量の人格乗り移り)の異様な狂気に煽動される幻想中毒のジェヴレン大衆の中をくぐり、マレーの元へ駆け込みます。

・ユーベリアスたちは、休眠状態の惑星アッタンのジェベックスの全面復旧準備を進め、他方、ハントたちは、ヴィザーージェブレンージェベックスの回線接続によるその阻止のため、マレーの知る闇組織に接触します。闇組織は、やがてユーベリアスに切り捨てられることがわかり、ハントたちに手を貸します。

・地球人たちは、エント人の先天的被害妄想と攻撃的性向による、異類侵略の被害者であるジェヴレン人を脅威に曝すことのないよう、エント人大量虐殺に通じる惑星アッタンマトリックス解体や永久孤立させるヴィザー拡張による封鎖を講じようとします。

 しかし、ニクシーのような被害妄想を克服し、平衡感覚に優れた円満な人格を保つものもいるし、自分の新たな存在と異界の不慣れな現実に折り合いをつけ、恐れず、悔やまず冷静に順応し、真摯に生きているものも考えられました。なので、エント人大量流出を食い止めるため、ハントたちは、その説得をすべくヴィザーを使ってジェヴェックス(エントヴァーズ)へ潜ります。しかし、リアルタイムに交信できるほどの回線容量が不足しているため、自分の分身として行動せざるを得ませんでした。

・この動きに気付いたユーベリアスは、即座にジェヴレンとの全回線を遮断し、ジェヴウレンのハントたちの拠点を襲撃します。

 エントヴァースでは、冒涜者の異端審問と処刑を行おうとするところをヴィザーの力を得て止めますが、回線切断によってハントたちは、逆に捕らえられてしまいます。

 ジェヴレンでは、シャピアロン号によって無事脱出します。そして、シャピアロン号の探査機で、惑星ネットワークに繋がっている無人衛星から、回線接続を果たします。これで、惑星侵略のためにチャンネルを開けば、ヴィザーがジェヴェックスに侵入できます。シャピアロン号の退去に騙されたユーベリアスは、大覚醒の号令をすべく、エントヴァースとの交信を始めます。

 ここで、ヴィザーが侵入し、エントヴァースのハントたちを救う一方、通力によって襲われた祭祀を通じ、ユーベリアスは人格崩壊の危機に至ったので、ヴィザーはエントヴァースにユーベリアスを転移させました。このように、神権政治が打倒され、さらに自立する民主的な国家建設を諭して、ハントたちは、エントヴァースを去りました。

・この後、ジェブレンでは、ジュヴレン産システムの整備とガニメアン遺伝子技術を使った生体改良によるエントヴァースとの往来の計画が実施されていきます。

(3)補足引用

P204「・・・情報の集積が、わたしたちと同じように物を感じたり考えたりする人格を持つなんて、気味が悪いわ」・・・

「じゃあきみは、人間は情報のかたまり以外の何だって言うんだ?何がきみという人格をこしらえているんだ?」・・・

「たまたま今現在、きみの肉体を構成している分子の集まりじゃあないだろう。分子は絶えず入れ替わっているんだ。ところが、分子が担っている情報は変らない。文字、パルス、有線無線の電波、と媒体が違っても伝えられる情報の中身は変わらないのと同じことだよ」

 (2022.02)

CM 

 最後までおつきあい頂きましてありがとうございました。

では、また!