キジしろ文庫

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ジェイムズ・P・ホーガン「内なる宇宙」(上)

あらまし

 架空戦争に敗れた惑星ジェヴレン。その全土を管理/運営する超電子頭脳ジェヴェツクスは、一方で人々を架空世界浸けにし、政治宗教団体の乱立を助長していた。一指導者による惑星規模の大プロジェクトが密かに進行するなか、進退谷まった行政側は、ついに地球の旧き友、ハント博士とダンチェッカー教授に助力を求めるが…。≪巨人たちの星≫3部作から10年、待望の第4部登場!(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:星1 

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 以下は、備忘のための簡単なとりまとめです、参考まで。

 ジェヴェックス(AI)が招じた、チューリアンに対する反動勢力の一部を、ハントたちが一掃した後、ガニメアンたちはジェヴレンの暫定統治を始めました。それは、生活に必要な機能を残したジェヴェックスとジェヴレン人の接続遮断によって、ジェヴレン人の物質・精神面の自力更生を目指すものでした。しかし、意に反して、ジェヴレンの街は荒れすさみ、市民は無気力化・貧困化し、これに伴う抗議行動や、依るべきところ・現実逃避ためのエセ宗教の横行と対立、集団的狂気が激しくなります。

 異星起源のジェヴェックスは、ジェヴレン人の生活の丸抱えに伴う自堕落を植え付けただけでなく、記憶や深層心理(願望、忘れたいこと)などの人格を精緻に写し取ったアバターとⅤRによる電子の世界を創出したことで、現実無用とする錯乱・幻惑作用とその中毒をもたらしているようです。接続遮断を弾圧や迫害と考えるエセ宗教は、ジェヴェックスの復活がいずれも共通しています。

 そこで、ガニメアンたちは、同じ人類の方がこのような問題には対処が可能と考え、ハントたちを要請します。これに応じたハントたちは、ジェヴレン到着直後に、以下のふたつの暗殺事件現場に遭遇します。そして、現地の地球人マレー、ジェヴレン人ニクシ―と出会います。

 ジェヴェックスへの不正アクセスを行い、闇で利益を得ている光軸教のユーベリアスは、その摘発を恐れ、警察幹部と螺階教のアヤルタを暗殺してしまいます。また、これを機とした教団の衝突を避けるという理由で、ユーベリアスは元兵器工場の惑星アッタンへの移住し楽園を建設することをガニメアンに申し出ます。

 さらに、事件は複雑化し、ユーベリアスの手先となってスパイ活動をするドイツ人バウマーへの接触を行ったジーナが、逆に拉致誘拐されてしまいます。

 さて、ハントが知り合った、覚醒者であるアヤルタのニクシ―によって、アヤルタが今回の騒動の直接の要因となっているらしい、ことが明らかにされます。それは、アヤルタはジェヴェックスを通じて機械の意識に入るとともに、別世界(ウォロス?)からやってくる意識が、人間の意識構造に乗り移り、二重人格化する特異な宿主だから、という事実からのようです。

P59「・・・人は誰が何と言おうと、自分信じたいことを信じるんだ。真実よりは安心を求めるからね。これはどうやったところで変わらない。・・・」

P153「キリストは人々に、パリサイ人や神官や書写役の言うことを聞くな、と言ったのよ。それ以外にも、権力を笠に着て庶民大衆を弾圧したり搾取したりする人間の言うことを聞いてはいけない、と教えたのよね。自分や世の中を知るには、ただ廉直と誠実を心懸けろ、というのがキリストの教えであって、実に単純明快だわ。儀式も教養も、組織の約束事も関係ないのよ。要するに、人間が自己の本性と自分を取り巻く現実と上手く折り合って行くための道徳律を説いているだけのことなのね。言い換えれば、キリストの教えは人間個々が己を知ってその責任において行動しろということで、当時、ジュヴレン人の努力にもかかわらず地球人が目覚めかけていた科学と理性にぴったり適合する思想だったのよ。ジュヴレン側から見れば、当然、キリストは危険人物だわ。地球人が知性を身に着けたらそれまでの努力も水の泡ですもの」

P263「・・・煎じつめた話が、信仰というものはおしなべて人間の本性に根ざす希望、不安、懐疑の表現であって、きみたちの求める統一的な解釈を必要とするものではないのだよ」

 (2022.02)

CM 

 最後までおつきあい頂きましてありがとうございました。

では、また!