キジしろ文庫

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ヘッセ「車輪の下で」

あらまし

 周囲の期待を一身に背負い猛勉強の末、神学校に合格したハンス。しかし厳しい学校生活になじめず、学業からも落ちこぼれ、故郷で機械工として新たな人生を始める……。地方出身の一人の優等生が、思春期の孤独と苦しみの果てに破滅へと至る姿を描いたヘッセの自伝的物語。(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:★★★星3 

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 言わずもがなの名著です。よみおえて、おもうことの一端を以下に書きとめます。

(1)ダイバーシティ

・既成の枠組みにはまらない才気ある異端者こそが、時代や社会を新たに切り開いてきている。にもかかわらず、社会は、自分に都合の好い画一的で陳腐な価値観や理想を強制し、また洗脳することで生き延びようとする。なので、それに従わない不穏・不満分子に対しては、いつも嚇しすかし・冷遇・非難・侮蔑・憎悪し、懲らしめ・排除してしまう。

・そして、このような、社会と個人の間にある専制的な力関係の構造の是非については、みなが沈黙し声に上らない。だから、問題提起し、必要な是正をしなければいけない。

・このように見て取り、ここで感じたことは、従順で忍耐強いよい子などを生む一定のルールによって、社会の進歩や発展はあるものの、むしろ、多様性こそが生物進化の大きな歴史だった、その意義深さを含めて、あらためて痛感したということでした。

P154 学校の先生はクラスに天才が一人いるよりも、正真正銘の鈍才が十人いる方を喜ぶものである。それはもっともなことである。というのも、教師の課題は極端な人間を育てることではなく、ラテン語や計算のできるよき小市民を養成することにあるからだ。

(2)備忘のための簡単なとりまとめです、参考まで(対人関係中心にまとめました)

 友だちも少なく、内向的で臆病、恥ずかしがり屋で心やさしいハンスは、ひとりで釣りをしたり、泳いだり、森を散歩をしたりなど自然のなかに、楽しみを見つけ喜びを感じる繊細で感受性が高く、夢見がちな世俗離れしたボッチです。

 このため、ハンスは、成績低下をキッカケに、人と人との交友、情愛、仲間意識、信頼関係の複雑さや矛盾、変化する距離感、悪意ある思惑など、幼年期から少年時代、青年・若者と成長するにつれて広がる対人関係のしがらみに翻弄され傷ついていきます。

 それは、周囲におもねず逆に浮き、冷遇・非難・侮蔑・怒りを受けても頼れる友人は去り、その一方であった、暖かな周囲の心配りには気付かず、挫折と絶望を繰り返し、苦しみを抱え込み精神を病み、ついには傷だらけになった自我をも喪失し破滅してしまいます。

 なお、この間では、仲間や集団・社会をつくるうえで備わっていた、受動的で従順、忍耐強く生真面目といった性格も災いし、利己的にふるまう先生たちにいいように利用され、拍車がかかりました。

 たとえば、受験という競争原理や優等生という優越感の植え付け、思春期のモヤモヤ・持て余しなどの好奇心・闘争心や反抗心に対するコントロール、規律や秩序に基づく自己訓練と集団意識の醸成、沸き立つ性欲に対する弄び、など。

 ここで一言つけくわえれば、世間とミスマッチし不条理にあえぐハンスには、絶対的な支えとなる信仰というものが、その機会があったにもかかわらず、真剣に考える余裕を奪われたことが、とても残念でした。

 (2022.02)

CM 

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