キジしろ文庫

ミステリーや文芸小説、啓発書などの感想やレビュー、エンタメや暮らしの体験と発見をおすすめ・紹介!

ウィリアム・ゴールディング「蠅の王」

あらまし

 疎開する少年たちを乗せた飛行機が、南太平洋の無人島に不時着した。生き残った少年たちは、リーダーを選び、助けを待つことに決める。大人のいない島での暮らしは、当初は気ままで楽しく感じられた。しかし、なかなか来ない救援やのろしの管理をめぐり、次第に苛立ちが広がっていく。そして暗闇に潜むという“獣”に対する恐怖がつのるなか、ついに彼らは互いに牙をむいた―。ノーベル文学賞作家の代表作が新訳で登場(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:星1 

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 本書からは、人間とは、敵意をあらわにして、自虐的な諍い・傷つけあいをし、さらに悦びすらを感じるなど、邪悪な欲求に衝き動かされる病い(原罪)をかかえている存在である、ということのようです。なので、子どもたちの無人島社会にはなかった、悟りや救いに価値観をおいて向き合わなければ、日常のわたしたちには、悪霊退治はほぼ絶望的なのかもしれません、と思いました。

 以下は、備忘のための簡単なとりまとめです、参考まで。

 子どもたちの無人島生活は、救助を知らせるための狼煙をあげること、食料の野豚を狩猟すること、寒さを凌ぎ不安をやわらげ、やすめる小屋をつくること、などの共同作業と分業、そのためのルールづくりや問題対処を決定する集会を開くといった、社会のしくみを模倣した統制をとることから、始まります。

 ところが、子どもたちは、

・自制心をはじめ、人格形成はまだ未熟。知識や考える力だけでなく、倫理や道徳観も未成長。

・電気製品をはじめ、これまでの日常生活を支えてきたモノがない。

・ふだんの言動に対しては、口うるさい思うけれども、困ったときに指導や助言を与えてくれる大人がいない。

 ということから、ジャックをはじめ多くに子供たちは、目前の食う・寝る・遊ぶといった生理的欲求の充足に関心が向いていきます(野蛮化)。

 他方、知性を働かせ合理的に物事に向き合おうとするラルフやピギー、サイモンたちは、狼煙の継続を第一優先に考えます。なので、狩猟に対して狂気をきざすようになってきたジャックからラルフへの、狡賢く謀る・嘲弄・挑発・威嚇、そして嫌悪は、折りあうどころか、互いに反目せざるをえず、余儀なく子どもたちは分裂されることとなります。

 とくに、野豚の狩猟は、食欲を満たし、ゲーム感覚で愉しめて、適度に疲労するだけでなく、野豚の殺生に伴うおぞましい刺激と快楽を、子供たちに呼び覚ましてしまいました(鬼畜化)。徐々に、生得的にある邪悪な心が、呪術的舞踊の狂乱の煽りなどもあって、その激しさを増し駆り立ててくるなか、狩猟グループは、心神喪失のうちに支配された悪鬼と化してしまいます。

P153「つまり、いいたいのは・・・<獣>ってぼくたちのことかもしれないってことなんだ」

 そこへやってきた、欲望(悪霊)による罠であることを知らせようとしたサイモンや、聡明で誠実な態度で接し、現実に目覚めさせようとするピギーを手にかけてしまいます。

 ジャックたちから肉をもらい、野豚も狩り、狼煙の意味と言った記憶もおぼろげになりながらも、ジャックたちに組することなく踏みとどまり、ラルフは、ついにひとりとなってしまいます。そして、ラルフから狂気に駆られている現実を突きつけられたところで、警戒心と敵愾心をもったジャックたちから、ラルフは凶行の対象となってしまいます。しかし、逃げ惑い追いつめられ、絶体絶命になったところで、救助の海軍が現れます。そこで、子どもたちみなが覚醒し、亡くなったふたりと追い込んでしまった心の闇に、涙します。

(付録メモ)

・本書表題の「蠅の王」とは、キリスト教7つの大罪のうち「暴食」を司る悪霊ベルゼブルの呼び名で、汚物や死の象徴として、すべての醜悪さを引き受けたような存在です。ジャックたちをそそのかした、ということです。

・ここで、7つの大罪とは、7つの死に至る罪として、①傲慢、②嫉妬、③憤怒、④怠惰、⑤強欲(貪欲)、⑥暴食(貪食)、⑦色欲なのですが、罪と言うよりもむしろ罪に導くような欲望や感情のことです。

・また、7つの大罪に対応する美徳としては、①傲慢⇒謙虚、②嫉妬⇒感謝、③憤怒⇒忍耐、④怠惰⇒勤勉、⑤強欲⇒慈善・寛容、⑥暴食⇒節制、⑦色欲⇒純潔、があげられるようです。

・さらに、マハトマ・ガンディーの指摘したとも言われる、7つの社会的罪とは、①理念なき政治、②労働なき富、③良心なき快楽、④人格なき学識、⑤道徳なき商業、⑥人間性なき科学、⑦献身なき信仰、です。全て、耳が痛いです。

 (2022.01)

CM 

 最後までおつきあい頂きましてありがとうございました。

では、また!