キジしろ文庫

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カレル・チャペック「山椒魚戦争」

あらまし

 赤道直下の島の入江には黒々とした不思議な生物が棲んでいた。現地では山椒魚に似た姿から、魔物と怖れられていたかれらだったが、じつは高い知能をそなえていたのだ。自然の中で生きる無垢な山椒魚が現代文明と出会ったとき、その内面に生じた重大な変化とは?チェコが生んだ偉大な文学者カレル・チャペックが、人間社会と山椒魚の出会いを通じて人類の本質的な愚かさを鋭く描き、現代SFの礎となった名作。改訳決定版。(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:星1 

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 本書からは、ナチス・ドイツだけでなく、一部の富裕層や経営者、コロナウィルス対策と五輪開催といった政府の矛盾した対応など、その背景となるような、不平等・不均衡構造の存在の無意識の受容を考えてしまいました。

・地位名誉・富・権力を集め、限られた者で頑なに守り結束し、決して公言することなく、その特権をむさぼる。また、権限は細切れにし、不利益などを取り扱うことには至らない(誰かがやる。自分たちは、いいとこどりをする)。

・このような格差やカースト(受益損益の不平等・不均衡構造)の存在を意識させることのないよう、直接の危険や損害が下層カーストに被り、それに躍起になるよう、構築操作していく。

 さて、以下は簡単なとりまとめです、参考まで。 

 山椒魚の出現は、真珠の採取から始まった安価で良質・多量の労働力を供給することと、新たな河川沿岸開発・人工島建設が行なわれ、これに伴って新たな労働市場が開かれ、金属・機械・化学・爆薬・セメント・電気通信・飼料などの基盤産業、輸送や保険なども発展することで、人類に対しての経済的な潤いをもたらすことになりました。これにあわせて、その飼育・育成とともに個体数は増加し、山椒魚は、兵役義務や警察に従うとともに居住の限定義務、納税や戸籍義務、教育を受けながら、工業生産・住宅設置、学会参加も認められるようになるなど、人間との関わりも増えてきました。しかし、その一方で、領土や主権、国家などが与えられるわけでもなく、民族でもなく、生存権もない人間の所有物に過ぎない存在でした。

 そして、このように人間社会の貴重な一部として組み込まれながら、その処遇への不満、激増しながらも不足する山椒魚の居住地を求めて、身勝手で一方的・暴力的な山椒魚の破壊行動(陸地を取り壊し浅瀬造成)が世界各地で猛然と勃発します。このための、山椒魚側への物資供給停止は人間側経済への多大な悪影響にも至るだけでなく、既貯蔵や裏ルートの存在などから、とても困難なものとなっていました。

 結末自体は書かれていませんが、どうやら、人間との戦闘継続後に、山椒魚内部の対立・抗争・分裂・激戦をやがて生じ自滅することで、人間側が再興する、というもののようです。

(2021.06)

CM 

 最後までおつきあい頂きましてありがとうございました。

では、また!