キジしろ文庫

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貴志祐介「新世界より」(下)

あらまし

 夏祭りの夜に起きた大殺戮。悲鳴と鳴咽に包まれた町を後にして、選ばれし者は目的の地へと急ぐ。それが何よりも残酷であろうとも、真実に近付くために。流血で塗り固められた大地の上でもなお、人類は生き抜かなければならない。構想30年、想像力の限りを尽くして描かれた五感と魂を揺さぶる記念碑的傑作。(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:星1

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 本書は、人間には、天賦の攻撃性があることを前提に、①呪力者同士では愧死機構を備え、また、愧死機構を使えない、②悪鬼や業魔出現に備えた監視や処分をし、③一般人に対しては、その恐怖心からバケネズミとして圧政・奴隷制をして排除し、呪力者の安心社会を獲得していた、という選民思想のお話でした。

 全体を通しては、弱肉強食や自然淘汰・自浄作用といった自然や生理に対しては、人間の尊厳といった理性や知性はいとも簡単に軽んじらてしまう。社会があれば、究極的には、人間どうしの関与や干渉は不可避であって、たとえば多様性とは難しいものであることが、感じられます。

 しかしながら、人間が生来対処すべきものは、地震津波・火災、伝染病などの脅威といった自然なのでしょう。平和ボケした社会にあっては、日常のなかで、人間という身内どうしの抗争に明け暮れてしまいますが、天賦の才をどこに活かすのかを、考えねばいけないと思います。

 とくに、本書で書かれているような、嗜虐心だったり、人間の傲慢さ・底知れぬ悪や業とは、非日常にあってはじめて、いかに、もろく、はかなく、むなしいものであることを感じます。「新世界」というコップのなかの嵐は、外から見れば、あまりにもバカバカしいと思いました。

 それでは、以下、3/3分割を備忘録程度に記します。

 26歳となった主人公は、町の保健所の異類管理課で、バケネズミの調査や管理(コロニー間の戦争や統廃合など)を行っています。

 そのような中、塩屋虻系と大雀蜂系の衝突をきっかけに、公認の戦争が始まり、人間に忠実な大雀蜂系が壊滅されてしまいます。どうやら町外の人間による呪力が行使されたようですし、人間への危険が及ぶことを考えて、塩屋虻系の一斉駆除・抹殺をすることになります。

 そして、夏祭りのさなか、塩屋虻系は、人間へ公然とした反逆・攻撃を始めます。人間側は呪力によって応戦するも、奸智をめぐらした作戦と悪鬼(バケネズミが育てた、町外逃避行した友人らの子)の出現によって、窮地に立たされてしまいます。

 そこで、愧死機構によって悪鬼を斃すことのできない主人公らは、かつて開発された兵器であるサイコ・バスターを求め、東京に向かいます。そこでは、悪鬼に対して恰好の使用チャンスがあったにもかかわらず、友人を犠牲にすることに堪えられず、失敗してしまいます。しかしながら、主人公は、バケネズミに育てられた悪鬼の愧死機構は、バケネズミに対してはたらくことを考えつき、奇狼丸の犠牲のもと、悪鬼の死とともにすべての事態が収束されます。(2020.04) 

では、また!