キジしろ文庫

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井上荒野「切羽へ」

あらまし

 かつて炭鉱で栄えた離島で、小学校の養護教諭であるセイは、画家の夫と暮らしている。奔放な同僚の女教師、島の主のような老婆、無邪気な子供たち。平穏で満ち足りた日々。ある日新任教師として赴任してきた石和の存在が、セイの心を揺さぶる。彼に惹かれていく──夫を愛しているのに。もうその先がない「切羽」へ向かって。直木賞を受賞した繊細で官能的な大人のための恋愛長編。(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと 

 雑感・私見レビュー:星1

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 養護教諭セイの思いは、本人や周囲で、直接の言葉では語られず、言動や情景・雰囲気でから推察されます。他方、それを「妖怪」とたとえる月江は、セイとは対照的に、島の人が知らない人はいないと言うほど、本土さんとの不倫をあけすけに繰り広げます。セイのように、言外の余韻を楽しむ方には合う本のようです。

 そのような中で、セイと石和は徐々に接近していきますが、最後に「切羽へ」というような危険を冒す行動に出ますが、一蹴されてしまいます。しかし、その冒険による緊張感や高揚、淋しさ・心苦しさ、そして切なさに、読む人の共感が得られるのでしょう。それも、言外である禁断ゆえの甘い蜜といった、こころの闇にふれる背景があってのことなのでしょう。(2020.03)

 では、また!