キジしろ文庫

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京極夏彦「鉄鼠の檻」(二)

あらまし

「もしやあの男―本気だったか」。不可解な呟きを残し、今度は老師の大西泰全が惨殺された。天下の険の懐深く入り込んだ捜査陣はなす術もない。空しく仙石楼に引き揚げた骨董屋の今川、カメラマンの鳥口、そして文士の関口。そこに待っていたのは京極堂による、典座・桑田常信の「憑物」落としだった。(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:星1

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 2/4分割なので、以下、備忘録程度に記します。

・明慧寺:大西泰全の師匠が、仙石楼の作庭の際に発見した記録にない廃寺で、その法系調査のため派遣された曹洞宗臨済宗といった僧からなっています。

・小坂了稔:常信とは犬猿の仲だが、ふたりとも脳波調査には熱心でした。明慧寺を壊したかった、世間に曝したかった、環境保全団体との関りといった金儲けはじめ不邪淫戒を破る風狂の僧で、失踪前夜に豁然大悟したようです。今は慈行である元監院でした。

・アリバイや動機:小坂了捻死亡時頃、和田慈行と桑田常信の夜座と牧村托雄による了捻目撃といったアリバイや、二重生活する小坂了捻の金ヅルを狙った寺ぐるみの犯行、宗派対立、といった動機などが語られます。

・便所に逆さまに突っ込まれた屍体といった、最古参大西泰全の謎の死:演出なのか見立てなのか不明、なお、殺害前に今川雅澄が会話し、その際に哲童を見かけています。

・鈴とヒトシ:飯窪季世恵の幼馴染の鈴は、13年前の松宮家の殺人放火5人焼死事件で(泰全や了稔が犯行?)行方不明に、兄ヒトシは出家(了稔の元居た寺?)し、明慧寺を訪ねているもようです。

・鈴子と哲童:鈴を思わせる鈴子と明慧寺の僧となった杉山哲童は、仁秀老人と明慧寺近隣にて一緒に住んでいます。

・桑田常信の錯乱と下山:曹洞宗の桑田常信は、悟りに至った曹洞宗の中島祐賢への劣等感や嫉妬心とそれに伴う罪悪感を正当化(たとえば座禅有効性の否定といった脳波調査など)するために、祐賢を犯人のように仕立て、その被害が自分にも及ぶとすることで、相殺しようとしました。

・菅野博行:常信の前の典座で、精神障害のため、明慧寺で軟禁されていましたが、鐘楼で暴れたことで発覚します。

京極堂:仕事で明慧寺貫首を尋ねようとし、仙石楼で常信の憑物落としをしてしまうことになります。さらに、笹原宅にて不審僧(松宮じんにょ)を拘束、会いに行くこととなります。

・本書では、禅とは、何もかも捨て、否定することから始まる、そうでないと己が何者かがわからない。他人の意見や世間の評価などに束縛されない、自在な精神をもって絶対的な主観たること、のようです。たとえば、健康な人は健康を意識しない、健康という概念が失われている状態、あっても受け流していること、のようです。すなわち、モノコト、言葉、概念、解るといった理性や知性、感情、ある・ない、概念化以前の裏側にある「無」意識のような世界や境地といったところでしょうか。(2020.03) 

では、また!