キジしろ文庫

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E・ブロンテ「嵐が丘」(下)

あらまし

 ヒースクリフはリントン家の娘イザベラを誘惑し結婚する。一方、キャサリンは錯乱の末、娘を出産して息絶える。キャサリンの兄ヒンドリーもヒースクリフに全財産を奪われてしまう。ついに嵐が丘を我が物としたヒースクリフだが、その復讐の手は次の世代へとのばされていく。(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:星1 

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 本書については、備忘のための簡単なとりまとめをしました、参考まで。

ヒースクリフは、ほどなく尽き果てようとしているキャサリンに逢うことができ、二人の聖なる魂からなる異境の愛を確かめます(現世の身分や資産・結婚などが二人の愛を引き裂き、苦しめ、さまたげになっている)。そしてその夜、キャサリンは、娘キャシーを産み、息を引き取ります。

ヒースクリフは異様なまでにキャサリンを想い、悲嘆・苦悶します。また、それを糺すイザベラには暴力でこたえ、ついには追い出します。エドガーも沈み込んでしまいますが、やがて、小生意気でおきゃんなキャシーを可愛がるようなります。そして、酒に溺れたヒンドリーも、ほどなくして亡くなってしまい、ヒースクリフはその息子ヘアトンを下僕のように扱い、おとしめます。しかし、ヘアトンは、読み書きも教わらず、善の勧めや悪の抑えも授からず、悪態をつき野卑で無知のどん底へ落とされ苦しんでいるにもかかわらず、ヒースクリフになつきます。

・時がたち、息子リントンを産み育ていたイザベラは、亡くなります。生前からイザベラに託されていた通り、エドガーはリントンを連れ帰ります。そこへ、父親であり、リントン家の財産を狙い、そしてキャシーたちをリントンに仕えさせようと考えていたヒースクリスはリントンを奪い取ります。しかし、リントンは虚弱で気難しくて性格も歪んでいましたので、ヒースクリフはリントンを嫌悪するようになります。そして、リントンは虐げられ、衰弱していきます。

・ここで、ヒースクリフは、リントン家財産を完全に自分のものにするために、生きているうちにリントンとキャシーを一緒にさせようと企みました(リントンが亡くなると、財産は男性のヒースクリフに相続されますが、既に父から分与され始めているキャシーがいることによるイザコザを避けたい)。

・そこで、偶然も手伝って出会ったキャシーとリントンは、互いに好意をもちます。これを知ったエドガーは、大事なキャシーを、忌み嫌う悪辣なヒースクリフに近けたくないため、その一方で、リントンをかわいそうにも思い、屋敷ではなく外で逢うことで渋々許します。この辺りから、エドガーは徐々に病弱になっていきます。しかし、キャシーは、リントンのわがままぶりだけでなく、病的で精気にも欠け、脅されていたとはいえ卑屈さや情けなさ・身勝手さに、気持ちが冷めていきます。

・そこで、ヒースクリフは、生命が危うくなっているエドガーの元を離れたくないというキャシーの父エドガーへの愛情を使って、キャシーを監禁することで、リントンとの結婚を承諾させてしまいます。そして、エドガー、リントンが亡くなり、気位が高く放縦なキャシーも、ヒースクリフによって心が荒れすさみました。

・さて、ここに至り、ヒースクリフは、ヒンドリー・エドガー・イザベラの後ろ盾となっている、身分や財産の保護をはぎ取ったことで、邪悪な心(一方的に他人を、嫌悪や憎悪し・侮蔑や見下し・いたぶり、苦しめ、弄んでいる)を曝け出させ、そして、行き場を失わせ・よどませ、自己を喪失させることで、復讐を果たしました。このようにして、後味の悪い、覚醒なき呪わしい醜悪な世界だけが残されました。

・しかしながら、アーンショウ家に残ったキャシーとアントンは、かつてのヒースクリフとキャサリンを重ね合わせかのように、その身分や財産・教養とは無縁に(差別や格差なく)、互いに惹かれあうようになります(アントンが勉強をして気に入ってもらおうとしていたことを、キャシーが小バカにしていたことも、かつてはありましたが)。

P356 「・・・あたしはあなたをバカ呼ばわりするけど、あれは本気じゃないのよー軽蔑なんかしてやしないわ。・・・」

P358 キャシーは本能的に、彼がこんなに頑固なのは嫌いだからではなく、意固地になっているからなのだと見抜いたのでしょう。一瞬あとには、ややためらいながらも跪いて彼の頬にやさしくキスしたのですから。

ヒースクリフは、キャシーたちのやさしくやぬくもりのある心を通い合わせる世界が訪れ、邪悪な心と入れ替わったことによって、ついに本当の思いがかなったことを感じました。そして、ここで、ようやくキャサリンの元へ逝くことができました。

 (2022.02)

CM 

 最後までおつきあい頂きましてありがとうございました。

では、また!