キジしろ文庫

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ユーゴー「レ・ミゼラブル」(下)

あらまし

 素性をかくして社会的な地位を得たジャン・ヴァルジャンだったが、警部ジャヴェルの疑いの目がつきまとう。慈しんで育てた孤児の少女コゼットは美しく成長して青年マリユスと恋におち、ジャン・ヴァルジャンは複雑な思いで見守る。中学以上。(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:★★★星3 

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 人間社会を存続させるために創った、どんなに立派な法や秩序、慣習などの仕組みでも、容赦ないエゴにまみれた奸物が生まれ、純粋なか弱き者ほど悲運に見舞われ、嘆き苦しみ、心をうしなうまでにもなっています(ファンティーヌやコゼット)。

 また、言葉や形では表せない人間の本質や真の魂を求めなければ、俗世のうつろいやすい幸福や快楽に身を溺れさせるだけで、本来の悦びに至ることはできません(テナルディエやジャヴェル)。

 なので、このような不条理な世界であればこそ、謙虚、寛容や慈悲といった徳を積み、また献身的な愛に自己を戒めること、さらには、絶対の神への畏れを抱き、救いを求めて縋り、罪の赦しをこう、このような信心を精神の支えとして持つことが大切なのかもしれません(ジャン・バルジャン)。

 さて、わたしたちが抱く世界観やライフスタイルは、人それぞれでさまざまだと思います。そして本書もその一例に過ぎないと思います。しかしながら、わたしたちは、全霊から愛情をつちかい、通じ合った心の絆やその大切な記憶があることによって、幸せに満たされながら天に迎え入れられるのだろうと思いました。

 以下は、備忘のための簡単なとりまとめです、参考まで。 

(1)ジャン・バルジャンの憂鬱

 マリユスは、ワーテルローの戦いで功を為し陸軍大佐で男爵となった父から、王党派で資産家の祖父ジルノルマン氏のもとに、財産相続のために引き取られていました。王党派の考えを持っていたユリウスでしたが、やがて亡くなった父を誇りに思い始めます。しかし、それを祖父が辱めたことで対立してしまい、家を追い出されてしまいます。そして、革命結社に加わりました。

 このマリユスが、ジャン・バルジャンと公園で日々一緒に過ごしていたコゼットに出会います。コゼットは少女から美しい女性(16歳)となり、そのふたりが視線を合わせると、マリユスはコゼットのやさしく深い瞳の前に心奪われ、コゼットも心ふるわせその心も恋にとけ、ふたりは慕いあいました。しかし、その後、コゼットは公園に来なくなり、行方もわからず、マリユスは途方に暮れてしまいました。

 この間、ジャン・バルジャンは、コゼットに広く社会を見せようと、修道院を出てパリに部屋を借り、コゼットとの散歩やミサ、不幸な人への施しをしていました。ジャン・バルジャンは、コゼットのことを、美しく成長しても依然として愛され続け、自分のもとにとどまってくれるよう望み、他方それは苦しみとしても感じてました。なので、コゼットからの愛によって癒しや慰みを得られる幸福を奪おうとするマリユスを嫌い、遠ざけてしまいました。そしてコゼットの淋しさ、悲しさに苛立ち、心の秘密をうち明けない優しさに心を痛めました。

(2)ジャン・バルジャンの寛容

 さて、マリユスは、貧困、欠乏、窮迫のうちにありましたが、隣家はさらに悲惨でした。そして、荒々しく、いかにもずるく、むごそうで、落ち着きのない、卑しい感じの隣人のテナルディエの家に、慈善家となったジャン・バルジャンとコゼットが訪れ、それをマリユスは見つけ驚きます。テナルディエは、施しのために再びやって来たジャン・バルジャンから、金をさらに脅し取ろうと、集めた仲間とともに襲いかかります(既に、ジャン・バルジャンと見抜いてました)。ジャン・バルジャンは、無理強いを止めるよう、焼けたみのを腕に押し当てて身をもって示しますが、逆に、テナルディエはとうとう命までも奪おうとします。

 マリユスは、ここで初めて、隣人テナルディエこそ捜していた父の戦場での命の恩人(ただの盗みをしていただけ)だとわかり、手配していた警察への通報にどうしてよいかわからなくなっていました。しかし、タイミングよく警察のジャヴェルたちが踏み込み、テナルディエ達の逮捕にこぎつけました。ただし、その最中に、ジャン・バルジャンは窓から抜け出していました。

(3)ジャン・バルジャンの失策

 この貧しさの惨状を恐ろしく思い、友人宅に身を寄せたマリユスは、テナルディエの長女エポニーヌから、コゼットの居場所を教えてもらいます(エポニーヌはマリユスへの想いがあったがゆえにですが、マリユスは気づきません)。そして、会うことがなかった1年間の後、マリユスとコゼットのふたりは初めて言葉を交わして、お互いの気持ちを確かめ合いました。夜毎ふたりが逢うなか、コゼットたちがイギリスへ渡航することとなります。コゼットと離れたくないマリユス(21歳)は、4年ぶりに家に戻り、祖父に結婚を願い出ますが認めてくれません。なお、イギリス渡航は、ジャン・バルジャンが町でテナルディエを見かけたことや、木に彫ったマリユスの住所を庭で見つけたことから、危険を感じて決心したものでした。

 マリユスは、絶望のなかでコゼットに会いに行きますが、既に出立した後でした。この愛の別れのために死を決意したマリユスは、暗がりで聞えた声(エポニーヌの恨めしい気持ち)によって、市民対軍の革命のとりでへと向かいました。マリユスは、接近銃撃戦が始まるなか、仲間を助け自爆も辞さずに襲撃軍を退却させます。このなかでマリユスに向けられた銃弾を、エポニーヌが防ぎ亡くなってしまいます。エポニーヌは、死の直前に告白をし、マリユスは厳粛に弔いました(せつない気持ちを感じます)。そして、マリユスは、エポニーヌが持っていたコゼットからの手紙の住所に、死の決意の手紙を送ります。これを見たジャン・バルジャンは、とりでへと向かいます。

(4)ジャン・バルジャンのゆるし

 とりでは、悪化する戦況にあって、拘束していたスパイである警察のジャヴェルの始末をつけなければなりませんでした。ジャン・バルジャンがその役を申し出ると、すぐに襲撃が始まりました。ふたりきりとなったなか、ジャン・バルジャンはジャヴェルを逃がします。その偽の銃声をマリユスは聞きます。そして猛烈な銃火がひらかれ、とりでや決起兵は壊滅しました。

(5)ジャン・バルジャンの献身

 この間に鎖骨を撃たれ気を失っていたマリユスですが、ジャン・バルジャンに抱えられて、長い下水道を通って戦場を離れます(ジャン・バルジャンはマリユスへの憎しみをもってはいましたが)。そして、この下水道に身を隠していたテナルディエが、ジャン・バルジャンのお金と交換に下水道の出口の鍵をあけました。ところが、外に出たふたりをジャヴェルが待ち構えていました(テナルディエの自分の逃走のための罠でした)。ジャン・バルジャンは、自分を捕らえる前に、マリユスをジルノルマン氏宅へ送り届けること、そして、自宅に寄らせてもらうことを、ジャヴェルから許しを得ます。そして、ジャヴェルは、自宅に入ったジャン・バルジャンをそのままにして立ち去ってしまいます。

(6)ジャン・バルジャンの偉大さ

 ジャヴェルとは、社会秩序を絶対的に信奉し、法の下に公正で厳格な処罰を与える非情の正義をもつ公僕です。ところが、とりでではジャン・バルジャンが復讐するはずの自分を赦し、今度は自分がジャン・バルジャンを正しいこととして赦し、しかもそれに喜びを感じました。それは、ジャン・バルジャンの寛大さや憐れみ深さといった高い徳・偉大さに圧倒されたことによるものでしたが、他方、ジャヴェルの生涯の支えである正義は崩れ、自分を見失ってしまいます。こうして、ジャヴェルは混乱する中、法に背いた罪(脱獄囚ジャン・バルジャンの逮捕ではなく放免)を選び取り、その自己処罰として川に身を投げてしまいました。

(7)ジャン・バルジャンの犠牲

 マリユスは3カ月の後、回復に向かいます。そして、祖父からコゼットとの結婚の許しを得て、コゼットと再会します。ジャン・バルジャンはその持参金として、60万フランを差し出します。ジャン・バルジャンは、その後行われた結婚式を途中退席して、自宅で10年前にコゼットに着せた黒い服や靴を並べて、楽しく暖かな思い出にひたり、胸がいっぱいになるとともに悲しみが込み上げました。

 翌日、マリユスを訪れたジャン・バルジャンは、自分の精神そのものである正直であろうとして、元囚人で、その後無期徒刑に処せられ脱走中の身であること、そして名前を告白します。また、これまでコゼットを育て、そして今ジャン・バルジャンの手もとを離れて、これからは別の道を歩むコゼットの幸福のためには、一緒に暮らそうと言うマリユスの言葉を断り、身を引くこととました(マリユスを助けたことを話すと引き止められるので、ジャン・バルジャンは話しませんでした)。そして、マリユスは自分たちの結婚につきまとう恐怖には、耐えることができませんでした(とりででジャヴェルを殺害した誤解してます)。このようにして、生涯の目的を果たしたジャン・バルジャンは、食事も喉を通らず、みるみる衰弱していきました。

(8)ジャン・バルジャンの救済

 こうしたなか、マリユスの下へテナルディエが、ジャン・バルジャンの秘密を売ろうとやってきます。まず、マリユスが知っている、ジャン・バルジャンの行った、マドレーヌ氏の金銭強奪(同一人物)やジャヴェル殺害(逃がした)の誤解を、テナルディエが訂正します。そして次に、テナルディエは、下水道で金持ちの青年の死体(マリユス)をかついだジャン・バルジャンに出会い、それが盗人で人殺しであるという秘密を語り、お金を要求します。しかし、テナルディエが持ってきた証拠の服の布きれがマリユスの服と一致したことから、テナルディエは、他人に罪をきせ破滅させようと悪事を働く悪党であり、ジャン・バルジャンこそ、ジャヴェルを救い、マリユスの生命を救った恩人だとわかります。マリユスはけんもほろろにテナルディエを追い払い、お金を投げつけて、悪漢テナルディエへの父の恩義をここで返しました。

 事実を知り、自分を恥じたマリユスとコゼットは、ジャン・バルジャンのもとへ駆けつけます。ジャン・バルジャンは、ふたりにゆるしをこい(ふたりの幸せのために身を引いたこと)、そして、その気高い本性がふたりに伝わり、コゼットに再び会えたかぎりない喜びに満たされるといった、救いが訪れます。やがて、ふたりが愛し合うことを願い、ジャン・バルジャンが愛するふたりに見守られるなか、逝くこととなりました。

 (2022.07)

CM 

 最後までおつきあい頂きましてありがとうございました。

では、また!