キジしろ文庫

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ジェイン・オースティン「高慢と偏見」(上)

あらまし

 元気はつらつとした知性をもつエリザベス・ベネットは、大地主で美男子で頭脳抜群のダーシーと知り合うが、その高慢な態度に反感を抱き、やがて美貌の将校ウィッカムに惹かれ、ダーシーへの中傷を信じてしまう。ところが…。ベネット夫人やコリンズ牧師など永遠の喜劇的人物も登場して読者を大いに笑わせ、スリリングな展開で深い感動をよぶ英国恋愛小説の名作。オースティン文学の魅力を満喫できる明快な新訳でおくる。(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:★★★星3 

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 本書については、恋愛や結婚など、個人の自由意思を尊重し、対等な関係を築き、想い・語り・ともになることを妨げてしまう、特権を伴う貴族・階級社会への代償に、根強い苦悩・不満や反発が背景にあったのだろうと思いました(ex格差婚は困難)。

 しかしながら、本書に登場する、娘たちの裕福な相手との結婚を望むベネット夫人、コリンズ氏の庇護人キャサリン夫人への媚びへつらったゆえの求婚、シャーロットの相手の人柄ではなく自分の器量・財産を考えた結婚、お高くとまったミス・ビングリ―や尊大なキャサリン夫人の娘のお金持ちとの結婚ための駆け引き、次男フィッツジェラルド大佐にとっての資産家女性への婚活など、いずれも、不自由不平等の中でもスキを窺い、物質的な生活の豊かさに伴う幸福や快楽を求めようとしています。

 このあたりは、利己心の充足のためのあさましさや卑劣さだったり、小才ゆえのラブコメだったり、そして社会や時代に支配される人間の憐れさや空しさをも感じました。

 また、上流階級が限られた富を求めて、身内で憎しみ・傷つけあい、果てしのない不条理な争奪戦を繰り広げれば、やがては貴族・階級社会の腐敗や衰弱に至るのだろうと思いました。

 他方、主人公エリザベスとダーシーは、貴族・階級社会がふたりの出会いをつくり、ふたりが無意識に抱いた高慢と偏見によって、想いがすれ違ってしまい、悩み苦しみ困惑します(格差の障害だけでなく、精神的にも悪影響を及ぼしました)。

 しかしながら、ふたりがより人間性を成長させ、格差を乗り越えて結ばれることになったのは、モノやコトを欲する・こだわるのではなく、愛を与える・尽くすといった人間の本質に向き直り、その自由や平等に気付いたからだろうと思いました。そして、このような現実社会の苦境にあらがうためには、この「愛」ような、真善美といった人間の理想とする価値の体現に至ることの大切さを感じました。

 

 さて、以下は、備忘のための簡単なとりまとめです、参考まで。

・主要人物である、大金持ちで美男子のダーシーは、物腰が上品で才知に秀でる一方、無意識の差別意識を背景に、気位が高く・気難しく、「高慢」さが癇に障り、ベネット家から嫌われます。

・これに対して、身分・家柄・財産のどれも劣る、地主階級の主人公エリザベスは、他への思いやりや優しさをもち、正義感が強く・気丈で聡明、そして、まあまあ美人です。

・エリザベスの恋愛・結婚観は、財産などに関わらず相思相愛の愛の力が大切、といった純粋な精神面を希求しています。が、その一方で、途中、ガーディナー夫人やフィッツジェラルド大佐から、お金のない者どうしの結婚は不幸、お金目当ての結婚は善くないといった、生活の現実面や道徳面といった健康的人生観も諭されています。

・さて、このふたりは、舞踏会で知り合いますが、ダーシーは、エリザベスを「まあまあ美人だけど、あえて踊りたいほどじゃない」と、当初は見下します。しかし、徐々にエリザベスの人間性や容姿・振舞いに魅力を感じ・惹かれ始め、やがては、格下のエリザベスにぎこちなく近づくようになります。

・しかし、この無礼な言葉を知ったエリザベスは不快に思い・嫌悪し、近づくダーシーを一方的に毛嫌いし・すげなくし・反発や挑発・あてこすったりもします(もしかしたら、無意識の差別意識に基づく、お金持ちへの嫉妬があったかもしれません)。

・そして、大好きな姉のジェインとその恋愛相手との仲を、ダーシーが裂いたことや、エリザベスも気にかけた、美男で気取りのない将校ウィッカムへの聖職禄推薦を反故にして不幸にしたことを、ダーシーの人柄への先入観によって、さらに都合よく思い込ん(「偏見」)でしまいます。

・このようにして、エリザベスは、ダーシーの人を傷付け・貶めるといった卑劣さ・傲慢さ、たちの悪い階級意識のプライドに、怒り・憤りと悲しみを感じ、不実な態度を非難し、戒しめなければならないと思うほどになっていました。

・そこへ、エリザベスへの想いを抑えきれなくなったダーシーが、突然の求婚をします。その告白は、格差婚についての自分への言い訳ばかりで、エリザベスへの真摯な想いを伝えることができません。なので、エリザベスは、ダーシーが取ったジェインやウィッカムへの不実を質し、そして、侮蔑を伴った告白にさらに不快や嫌悪を感じて、にべもなく拒絶してしまいます。

・しかし、翌日、ダーシーからの手紙が、エリザベスに渡されました。それは、ジェインたちへの現実(家族の下品な振舞いや身分など)を含めた幸せを思って、友人としてのとりなしをしたことや、やさぐれていたウィッカムが、たかりや嫌がらせをしていたというもので、質されたことに誠実に応える、とても心のこもったものでした。

 (2022.03)

CM 

 最後までおつきあい頂きましてありがとうございました。

では、また!