キジしろ文庫

ミステリーや文芸小説、啓発書などの感想やレビュー、エンタメや暮らしの体験と発見をおすすめ・紹介!

遠藤周作「海と毒薬」

あらまし

 生きたままの人間を解剖する―戦争末期、九州大学附属病院で実際に起こった米軍舗虜に対する残虐行為に参加したのは、医学部助手の小心な青年だった。彼に人間としての良心はなかったのか?神を持たない日本人にとっての“罪の意識”“倫理”とはなにかを根源的に問いかける不朽の長編。  (文庫本裏表紙より)

よみおえて、おもうこと 

 雑感・私見レビュー:星1

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 みんな死んでいく時代、生きることに希望を持てない世の中、強烈な思想的洗脳の戦時下、或る者は、失敗の隠蔽・地位や権力のために、或る者は、死産不妊・離婚・嫉妬と蔑み・安楽死処置未遂のはてに、或る者は、嘘と演技・盗み・姦通・不法中絶行為をへて、そして或る者は、決断できないまま目の当たりにしてしまい、怖じ気づき自らを否定しながら、生体実験が事務的に機械的に終えます。

 このような極限状態のなかだからこそ、人を人と思わないといった罪を犯さざるを得ない人の原理がはたらいてしまうのでしょう。それは、他人や世間、社会の目があり、ふれてしまう現実的罰とは異なるものなのでしょう(良心の呵責とか)。

 したがって、人を裁けば、自分が神に裁かれるなど、絶対的な存在や価値観を持ち得なければ、釈然としない、こころの不気味さを味わい、さらに繰り返しの行為が続いていくのでしょう。

「死ぬことがきまっても、殺す権利はだれもありませんよ。神さまがこわくないのですか。あなたは神さまの罰を信じないのですか」(作中引用)(2020.07)

では、また!