キジしろ文庫

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辻村深月「かがみの孤城」(上)

あらまし

 学校での居場所をなくし、閉じこもっていた“こころ”の目の前で、ある日突然部屋の鏡が光り始めた。輝く鏡をくぐり抜けた先にあったのは、城のような不思議な建物。そこにはオオカミの面をつけた少女が待ち受け、こころを含め、似た境遇の7人が集められていた。城に隠された鍵を探すことで願いが叶えられるという。すべてが明らかになるとき、驚きとともに大きな感動に包まれる。本屋大賞受賞。(文庫本(上)裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:星1 

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

・本書は、「かがみの孤城」での鍵探しというファンタジーを通じて、目には見えない、時を超えた人と人との繋がりの連鎖による力(それに伴う助け合いの心や生命の大切さ)を信じること(そっと、寄り添ってもらう)で、心の支えとなって、現実の困難を乗り越えるといった、メッセージなのだと思いました。

・さて、本書では、素直で優しく思いやりのある子たちが、大事に育てられきますが、進路や親の離婚・祖母や姉の死などの環境変化がキッカケで、虐待・いじめ・疎外・過干渉などにあい、あきらめや空しさから、助けを求める声を出すことすらできず、もがき苦しみながら、引きこもりや不登校となっています。

・このような理不尽な境遇から、主人公たち(不幸なわたし)は、とても被害者意識が強く、一方で自意識過剰のため、自主性の低い・依存性の高い人たちとなっています。このため、常に、他人の言動(視線や評価)や空気を意識して、気持ちを探り・先読み・深読み・裏読みし、距離をはかりながら、対人関係面からの優位を保とうとしますし、逆に、怯えたあげく逃げ、悔やみ、無気力やヤケになったり、周囲を恨めしくも思っています。

・なので、先のメッセージは、生きずらさや息苦しさを感じる人たちには、肯定感を得て共感でき、励みにもなる一方で、自分の人生を受け身にして他者に寄り縋る・自己への執着心の助長と、逆に更なる制約となる重荷にもなりかねません。むしろ、本書を通じて、大人やいじめる側といった強者の気付き、思い直すことの方が大切なのだろうと、感じました。

・ところで、東日本大震災から10年を迎えますが、発災後の助け合いなどの絆も大事ですが、非常事態発生時の当事者となった者への、わけ隔てのない「津波てんでんこ」といった厳しい教訓を忘れてはならないと思います。親や先生、友達からの介入や干渉をイヤがる一方で、全幅の依存や承認欲求を求めるといった、都合の良い人間関係を築こうとしているなど、生ぬるい日常意識(自分ではなく人をあてにしていること)を、まずは反省してみる必要があるのかもしれません。

 以下、簡単な上巻のまとめです、参考まで。

 中学入学早々、いじめに遭い不登校になった、こころは、①一つだけ願いが叶う、②その際は城での記憶を失うが、叶えられなかった時は記憶が残る、③17時以降も城にいると狼に食べられる、と話す、狼少女のいる「かがみの孤城」に、他の6人とともに過ごすこととなります。

 城内でのコクる・キレる・鍵探しで意見が合わない、リアルの世界であった、自らのいじめ話の打ち明け、茶髪にピアスといった変貌、ケンカによるケガ、彼氏話、転校などの出来事のあるなか、徐々に仲間意識が育ちます。

 そんななか、制服で来たアキによるキッカケによって、各自の事情や、共通となるフリースクールの喜多嶋先生についても語られるとともに、ともに助け合うことで、リアルの世界で会う(=登校する)こととなります。

(2021.03)

 では、また!