キジしろ文庫

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細谷功「具体と抽象ー世界が変わって見える知性のしくみ」

あらまし

永遠にかみ合わない議論、罵(ののし)り合う人と人。
その根底にある「具体=わかりやすさ」の弊害と、「抽象=知性」の危機。
具体と抽象の往復思考で見えてくる対立の構造と知性のありようとは?(本書帯表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:星1 

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 以下は、備忘のための簡単なとりまとめです、参考まで。

 本書については、以下(1)の説明をふまえたうえで、

①議論が噛みあわない、ということがないように、「抽象と具体」の程度の分別と自覚をもって、場面に応じてうまく組み合わせ、使いこなすことが大事ということと(2)、

②抽象化を妨げる特例扱いや弊害のないように、「高尚な理は卑近の所にあり」というように、現実の具体からの抽象化⇒過去の経験や知識から新たな知の創出⇒実行レベルへの具体化も大事ということ(3)、をおさえることだと思いました。

 それにしても、会社の会議とは、多人数での議論と多数決による意思決定をすること自体に意義がある(無難化や凡庸化を求めている)ことだということを、あらためて考えさせられました。※コンセプト⇒イメージやデザイン⇒ⅭGや模型⇒設計図⇒施工図⇒施工・完成

(1)抽象と具体の説明

・デフォルメ(特徴を抽出すること) ⇔ 写実的(神は細部に宿る)

パターン認識や法則(力学法則のF=ma、一を聞いて十を知ること) ⇔ 個別事象

・関係性や構造(力学法則のF=ma、歴史の因果関係) ⇔ 個別・バラバラの世界

・二項対立(ものごとを考えるための方向性や視点でとらえる、例えば座標軸に置く) ⇔ 二者択一(白か黒か、デジタル的)

・哲学、理念、コンセプト(統一感や方向性がある) ⇔ 個別の行動(場当たり的、ひとつひとつを意思決定する)

・アナロジー活版印刷機はブドウ圧搾機から、回転寿司はビールのベルトコンベアから、抽象レベルでのマネで生まれた) ⇔ 記載なし

・要するに何なのか?、プレゼンなどでのメッセージ ⇔ 膨大な情報

(2)場面ごとに判断して適用すること

・本質(原理原則や方針、変革期に求められる) ⇔ 表層的事象(現場運用や改善、安定期に求められる)

・上流から下流へは質から量への転換

P66 上流の仕事は個人(さらにいえば、最上流は一人)の作業から始まって、次第に参加者が増えていきます。上流で重要なのは個人の創造性で、下流で必要なのは、多数の人数が組織的に動くための効率性や秩序であり、そのための組織のマネジメントやチームワークといったものの重要性が相対的に上がっていきます。上流では個性が重視され、「いかにとがらせるか?」が重要なため、多数決による意思決定はなじみません。意思決定は、多数の人間が関われば関わるほど「無難」になっていくからです。逆に下流の仕事は、大勢の人にわかりやすいように体系化・標準化され、また、どんな人が担当してもスムーズにいくように、各分野の専門家を含む多数の人が目を通す(管理する)必要が生じてくるのです。

P68 このような「仕事の質の違い」は、日々のオフィス環境や上司・部下の関係での仕事の進め方にも影響するはずです。しかし実際は、組織の職場環境はおおむね「下流」の考え方に最適化されています。それは前述のとおり「仕事の量も人数も多く、万人にわかりやすいもの」が求められるからです。

P69 価値観の違いに関しては、「質の上流 vs 量の下流」という視点もあります。下流の仕事は多くの人が関わったほうがレベルが上がり、速く安くなりますが、上流の質は、むしろ関わった人の量に反比例します。人が関われば関わるほど品質は下がり、凡庸になっていくのが上流の仕事といえます。そのため、「下流の仕事のやり方」に慣れている人は、多人数で議論を繰り返して多数決による意思決定をすることが仕事の品質を上げるという価値観で仕事をしますが、これは上流側の抽象度の高い仕事には適していません。

p106 最後の特徴としてあげられるのが、感情への訴求度です。抽象度は上がれば上がるほど。客観性が増していく分、感情には訴えにくくなります(個人の実体験に基づく苦労話を聞いて泣く人はいても、数学の話を聞いて感動のあまり涙を流す人はまずいないでしょう9.ところが、人間は、個人レベルでは感情で動くことがほとんどですから、集団での目標を達成するためには、感情に訴えることが不可欠です。そのような場合に必要なのは具体例、個人的な体験やストーリーということになります。ここでも、具体と抽象をうまく組み合わせて使い分けることがポイントです。

(3)コミュニケーションギャップを生じやすい抽象化

 抽象的な話は、それがわからない人には全く通じないという問題が依然あるし、また、以下のような弊害もあります。

P128 人類に思考という最強の武器を手に入れさせた一方で、「野性の行動力」を失わせたのも抽象という概念なのかもしれません。頭の中にとんでもなく大きな精神世界を作り上げた人間は、物理的な世界ではある意味動物に劣って当然ともいえます。「考えると行動ができなくなる」のも抽象のもたらした弊害です。

 (2022.06)

CM 

 最後までおつきあい頂きましてありがとうございました。

では、また!