キジしろ文庫

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森見登美彦「聖なる怠け者の冒険」

あらまし

 社会人2年目の小和田君は、仕事が終われば独身寮で缶ビールを飲みながら夜更かしをすることが唯一の趣味。そんな彼の前に狸のお面をかぶった「ぽんぽこ仮面」なる人物が現れて…。宵山で賑やかな京都を舞台に果てしなく長い冒険が始まる。著者による文庫版あとがき付き。(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:星1 

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 本書は、とりとめのないドタバタファンタジーです。

 退屈なこと、何も起こらないことは悪いこと。何かに役立とうなんて考えは、笑い飛ばす。人生には刺激があって、みんながおもしろい、楽しいと感じるのが大切だという指向性、それは、別に悪いことじゃない。このように道徳観念が薄まったり、少し退廃・享楽的な気分にさせてくれます。

    他方、日常を忘れることで、毎日の緊張やストレスを癒し、息抜きや安らぎを得たりすることの大切さも必要と思いました。

 以下は、簡単なとりまとめです、参考まで。

・化学工業研究所の後藤所長ふんする善行によって人生を充実させているぽんぽこ仮面が、同研究所2年目の、退屈で退屈でいやになるほど怠けたい、怠け者の小和田君を、その跡継ぎにしようとします。

・後藤所長送別会⇒立誠小学校(ぽんぽこ仮面の正体をつきとめるという依頼を受けた、アルバイト探偵の玉川智子さんが捕まえようとしますが失敗。)

・⇒喫茶店⇒蕎麦処六角(主の津田氏が招いたゲストのぽんぽこ仮面を捕まえようとしますが失敗。これは、大日本沈殿党の嚇しによるものでした。小和田君は、その間、蔵で南国の楽園にいる夢の最中です)。

・小和田君は、夢の中で、南の島でぽんぽこ仮面から、飯田線の列車の中で所長から、諭され続けますが逃げてしまい、無限にある小学高時代の夏休み的世界の退屈にひたります。

・ぽんぽこ仮面は、大日本沈殿党のある下鴨幽水荘を訪れますが、ここで、崩壊寸前の党の立て直しに必要な絆を固めるために、桃色資料を提供する閨房調査団からの依頼だとわかります。

・なお、大日本沈殿党とは、自分が幸福を感じられないのは、誰かが幸せすぎるからという、社会全体の幸福は一定の値となるという思想のもと、さまざまな悪事を重ねる学生組織で、やがて、他の党員の幸福の破壊・足の引っ張り合いをするようになりました。設立者の津田氏はこれにウンザリし、組織を去りました。

・しかし、今度は、その閨房調査団やこれまで親切にしてきた市民が、下鴨幽水荘に入り乱れてきます。ぽんぽこ仮面は、ここを逃げ延び、疲れ果てて煙草屋に辿り着きます。煙草屋からは、テングブラン流通機構の命令が下ったことを聞きつけますが、仮面をとり、つい横になってしまいます。

・ここへ、蕎麦屋からぽんぽこ仮面を追って迷子になっていた玉川さんが、煙草屋を訪れ、立ち去った人物が、かつて迷子の自分を助けてくれたぽんぽこ仮面と同人物と気づきます。宵山で迷子になりたくない玉川さんは、煙草屋の2階にあがりますが、穴に落ち、そこは小和田君が寝ている蕎麦屋の蔵でした。

・玉川さんは、重要人物の小和田君とともに探偵事務所に戻り、依頼人からの電話によって、浦本探偵と報告に向かいます。一方、残された小和田君の目の前では、追われているぽんぽこ仮面が現れます。小和田君は、疲労困憊となったぽんぽこ仮面を秘密基地まで連れ戻り、尽き果ててしまったぽんぽこ仮面の仮面をとってみれば、後藤所長だったとわかります。

・小和田君は、ふと仮面をつけてみたところで、テングブラン流通機構に踏み込まれてしまいます。勘違いのままに、玉川さんやテングブラン流通機構大番頭5代目の待つレストラン菊水の屋上に、連れていかれます。

・そこでは、ぽんぽこ仮面を連れてくるという依頼は土曜倶楽部によるものとわかり、今度は、居酒屋の響に連れていかれ、日曜倶楽部⇒月曜倶楽部・・・ついには、怠け者の狸の八兵衛明神が、部屋片付けのために、八兵衛明神の使いを名乗るぽんぽこ仮面を、呼び寄せたものだということを、明かしました。

・しかし、怠け者の小和田君(ぽんぽこ仮面2号)は片づけをしません。そこで、八兵衛明神は、親切を億劫がる小和田君の跡継ぎのために、みんなをぽんぽこ仮面にするように神託を出します。その後、なんとか片付けも終えて帰ろうとしますが、迷宮からなかなか脱出できません。

・この間に、所長は復活し街に現れますが、依然その捕物が続きます。精根尽き果て節に屈したぽんぽこ仮面の前で、神託が街に伝わったことで、次々にみなが転向し、街はぽんぽこ仮面だらけになります。ついに困惑し助けを求める所長の前で、天地が逆転し、ぽんぽこ仮面2号(小和田君)が降臨し、所長は、これでやっと肩の荷が降りました。小和田君は継がなくとも、跡継ぎ問題も解決です。

P57「多くの人は、ただ漫然と動くのを止めさえすれば休むことができると思いこんでいる。しかし我々に必要なのは、じつは動きを止めることではない。正しいリズムを維持することです。マグロのように泳ぎ続け、疲労の向こう側へ突き抜けること。これがコツです。したがってワタクシは疲労しません」

P220「役に立とうなんて思い上がりさ」

P310「僕は人間である前に怠け者です」

 (2021.12)

CM 

 最後までおつきあい頂きましてありがとうございました。

では、また!