キジしろ文庫

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五木寛之「大河の一滴」

あらまし

 なんとか前向きに生きたいと思う。しかし、プラス思考はそう続かない。頑張ることにはもう疲れてしまった―。そういう人々へむけて、著者は静かに語ろうとする。「いまこそ、人生は苦しみと絶望の連続だと、あきらめることからはじめよう」「傷みや苦痛を敵視して闘うのはよそう。ブッダ親鸞も、究極のマイナス思考から出発したのだ」と。この一冊をひもとくことで、すべての読者の心に真の勇気と生きる希望がわいてくる感動の大ロングセラー、ついに文庫で登場。 (文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと 

 雑感・私見レビュー:星1

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 本書では、人間とは哀しいものだと思い、人生は残酷であるのが自然だと考える。このような不条理は、人はみな大河の一滴にすぎないと、自然の摂理を感じて折り合いをつけていくというか、人と自然を分けずに自然と一体となるという考えが、始めの1/3弱のなかで述べられています。残り2/3は、その理由や解説として、哀しみと喜び、絶望と希望といった心や感情をもつことの大切さなどが、いろいろな角度からふれられています。

 それにしても、私たちは、つくづく「試されている」のだと思います。一筋の明かりが垣間見えても、その先には、再び闇が待っていることを覚悟しなければならない、作者の言う「萎える」です。そのようななかで、自分の境遇についての妄執に抗い、安直に対人関係に持ち込むのではなく、自分の中で鍛錬するさまには、ただ敬服する思いです。

P21 人は泣きながら生まれてくる

 この弱肉強食の修羅の巷、愚かしくも滑稽な劇の演じられるこの世間という円形の舞台に、私たちはみずからの意志ではなく、いやおうなしに引き出されるのである。あの赤ん坊の産声は、そのことが恐ろしくて不安でならない孤独な人間の叫び声なのだ。

P65 滄浪の水もし濁らばおのれの足を洗うべし

P291 冷たい夜と闇の濃さのなかにこそ朝顔は咲くのだ

 ところで、実は、最も印象に残り、試してみたいものは、これでした。

P212 <あ>と<お>の使い分け

 チンパンジーは、相手が自分よりも力が強かったり長老だったりすると、「あっ、あっ、あっ」と口をひろげて声を発し(学生・サラリーマンは、先輩には「あ、〇〇さんですか」と電話応対し)、相手が弱い場合は「おっ、おっ、おっ」と口をとがらせて威嚇する(同じく、後輩には「お、○○くんか」となる)。(2020.08)

 では、また!