キジしろ文庫

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マーサ・ウェルズ「逃亡テレメトリー」

あらまし

 かつて大量殺人を犯したとされたが、その記憶を消されていた人型警備ユニットの〝弊機〟。紆余曲折のすえプリザベーション連合に落ち着いた弊機は、ステーション内で他殺体に遭遇する。弊機はミステリー・メディアを視聴して拾った知識を活かして捜査をはじめるが……。ヒューゴー賞ネビュラ賞ローカス賞・日本翻訳大賞受賞<マーダーボット・ダイアリー>シリーズ最新作!(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:星1 

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 本書に登場する、人格をもった弊機は、メンサ―博士たちの優しさや思いやりといった感情を苦手にし、その身体的接触を生理的に嫌悪しています。しかし、大量殺人を導いた統制モジュールを自ら解除したように、人間を献身的に手助けしたり、その見て見ぬふりをできないといった、清純な心をもっていると思います。なので、こういった弊機の心の内面で生じる葛藤や矛盾に伴って、せつなさや、やるせない気持ちが生じます。

 他方、愚痴る・皮肉る、タテつく・すごむ、見栄をはる、さらには、屁理屈をこねる・悪態をつくなどの、相変わらずの弊機の、やさぐれ感やひねくれ感は好調です。このように、気難しさもあり、長短あわせもつ不完全さがとても人間的で親近感がわいてきます。というわけで、弊機と険悪だった警備局との距離感も徐々に縮まり、事件捜査を解決に導いたのだろうと思いました。

 なお、本書は、「逃亡テレメトリー」「義務」「ホーム それは居住施設、有効範囲、生態的地位、あるいは陣地」の3編から成っています。以下は、「逃亡テレメトリー」についての、備忘のための簡単なとりまとめです、参考まで。

(1)ステーション

・ステーション路上で身元不明の他殺体が発見されたことが、メンサー博士へ連絡されました。弊機は、メンサー博士に対するグレイクリス社の活動かどうかの見極めまで、経験の浅い警備局に捜査協力することとなりました。なお、警備ユニットの暴走を懸念していた警備局によって、弊機は非公開システムアクセスは禁止など、警備局とは険悪な関係です。

・死体発見現場では、弊機によって、被害者の衣服には本人の接触DNA痕が清掃済み、その衣服は企業リムや船等のリサイクル品だということを指摘しただけで、その後の捜査協力は無用とされました。

P41 人間と強化人間はフィードIDを無効に設定できます。(中略)プリザーベーションでは、”干渉しないでほしい”という意味です。ぴったりです。

P43 クローン製造された人間由来の組織と強化部品でできていて、不安と憂鬱とやり場のない怒りをかかえ、賃貸した人間にとっては殺戮機械であり、失敗を犯せば統制モジュールに脳を焼かれる・・・そんな構成機体です。

(2)居住区

・そうは言っても、捜査進展のため、弊機は一時滞在者用居住区で、被害者画像とボットとの接触によって、被害者の部屋と名前「ルトラン」をつきとめました。そして、警備局にそのデータを送信後、次は行動履歴調査のため、中継リングに向かいました(データアクセスできないので)。

P52 自由ボットは自分で自分に名前をつけます。そのことを聞くとうんざりした気分になります。

P53 弊機はボットではなく、人間でもない。明確な分類にあてはまりません。また保護されるのもいやです(ボットと後見人の制度には保護欲旺盛な人間がむらがっているように思えます)。

P57 自由ボット風情から意見されたくありません。(中略)”自由”ボットの意見が正しいと認めるのはしゃくですが、それでも中継リングへ行くべきでしょう。

P61 人間のような愚痴はやめましょう。ここは辛抱のしどころです。

(3)中継リング

・ここでは、ステーションフィード接続している船のうち、企業リムの無人自動貨物船にルトランだけが乗船し(下船していない)ており、しかも、その船がシステム障害で助けを求めていることがわかりました。そこで、ハッチから進入しました。

P67 ピン・リーみたいな屁理屈をこねるようになったな。

P66 本来なら怒りたいところですが、(中略)がまんしました。

・船内ラウンジで、ルトランと思われる血痕を発見します。

P69 (弊機も負傷すると液体を漏出させます。不潔という点ではおなじですが、種類が異なります)(それでも負傷しないかぎり液体の排出口はごくわずかです)(どうでもいいことです。わかってます)。

P76 意味はよくわかりませんが、特捜部というのはかっこいい肩書きで、すこしうらやましくなりました。

・ここで、通報後、駆けつけてきた警備局と港湾管理局員から、弊機の事件関与が疑われますが、アリバイ映像記録を示して立証します。そして、監視カメラ映像から、配送カートによって犯人?と死体を搬出していたことがわかりました。しかし、接触DNAの除去はしてたのに、船内の未清掃という謎が残りました。このようにして弊機が事件と関わるなか、警備局から弊機への指示として、この船に積み込む貨物を運んできた系外船(ラロウ号)のいる商用ドックに向かいます。

P81 (意固地になっているだけだとわかっていますが、あきれさせたいのです。なんだこいつはとおもわせたいのです)

(4)ラロウ号

・このラロウ号には、貨物室からの荷卸し記録はなく、応答もありません。そこで、ラロウ号に先行組の警備局員が入ります。通信が途絶えましたが、発信していた緊急要請を拾って中に入ってみると、銃を構えた5人がおりました。即座に、弊機が介入と救出のうえ、逮捕連行となりました。

P102 「警備ユニットは口ごたえしないものなのに・・・」おや、そうですか。

P112 人間たちからいっせいに注目されました。こればかりは不快です。

・さて、この5人への尋問によって、①顔は知らないルトランと乗船していた10人の人間がいたこと、②採掘企業のブレハーウォールハン社に雇われていた人の密輸をしていたこと、③それは、年季奉公契約という名の奴隷労働者の救出(難民)であったこと、④ルトランはその首謀者兼引き渡し相手だったこと、⑤さらに、犯人は難民救出阻止を目的としたブレハーウォールハン社の工作員の可能性が高まったこと、がわかりました。その後、商用ドックの監視映像にルトランと難民の下船を確認します。しかし、難民が商用ドックから出ていないことがわかりました。ここで、グレイクリス社の犯行可能性が低下したことから、弊機の捜査離脱もできましたが、また、総出の難民捜索に加わることを指示され、警備局とともにしました。

・そこへ、所在不明でステーション外に出ていると思われる貨物モジュールがあることが貨物取扱者から連絡されました。それは、与圧可で記録不正消去(管理局システムのハッキングもしくは管理局関係者の犯行)されていました。どうやら、ルトランは、難民が貨物モジュールに乗り込んだことを確認した後、自分の船に行き、自動接続したモジュールから、難民を船内にいれようとしたところ、モジュールは別場所へ移動し、船内には誰かがいて殺されたようです。

・貨物モジュールは、事件直後に宇宙港閉鎖されていたので、どこかの船に接続しているはずです。そして、ブレハーウォールハン社の狙いは難民救出ルートや回収場所を極秘に押さえようとしていることからすると、こちら側のモジュール発見は、難民の殺害と彼らの逃亡になると予想されました。ここで、問題のモジュール接続した船を発見しました。

・しかし、港湾管理局内通者が回線傍受している可能性があるため、ステーションから指揮を取ることができません。なので、直接救出に向かえる弊機の出番となりました。

(5)敵船

・弊機は、救命ボートを使って接近・接続し、貨物モジュールの整備用ハッチを、敵船のシステムに入って開けた後、貨物モジュール内に入りました。弊機は強化人間のフリをして、救命ボートへ定員の6人を誘導しました。この難民によると、敵は賞金稼ぎの難民狩りのようです。そうこうするうちに、敵が気が付いてしまったので、敵船と貨物モジュールとの切り離し(即死)前に、敵船とモジュール間の臨時ハッチを開け(開けた後、モジュールを切り離すと敵船も減圧)ました。そこで、敵を倒しながら、残る4人を敵船へ誘導しました。しかし、弊機は、警備ユニットだと気づいた救助者によって、背後から撃たれてしまいました。なお、それでもこの後、敵の制圧と保護は成功しました。

(6)港湾管理局

・既に十二分な協力をした弊機ですが、最後に残ったルトラン殺害犯を捜します。このために、弊機はステーション全データから、容疑者の絞り込みをします。しかし、この蓄積データの使用を管理局員に話したこと、そして、ルトランの船で受け取るべきモジュールの貨物ボットの作業履歴を検索したところで、弊機は浮上クレーンの下敷きになりかけます。これで、犯人の目星をつけた弊機は、管理局の貨物管理機バリンを貨物ボットたちの協力もあって、打ち倒しました。

・バリンとは、既に消滅している企業貨物船からの亡命ボットで、内部機能が休眠していた戦闘ボットでした。しかし、ブレハーウォールハン社がその制御コードを入手して、奴隷逃亡ルートを潰そうとした手駒ということでした。

・そのバリンの犯行内容とは、ルトランの船へは船外から侵入し、待ち受けた後ルトランを殺害、そして、犯人を人間と思いこませるために、接触DNAを清掃しました。次に、ルトランのIDで配送カートを呼び、自分はまた船外から戻ったというものでした。

(2022.5)

CM 

 最後までおつきあい頂きましてありがとうございました。

では、また!