キジしろ文庫

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マーサ・ウェルズ「ネットワーク・エフェクト」

あらまし

ネビュラ賞ローカス賞受賞】かつて大量殺人を犯したとされる人型警備ユニットの“弊機”は、恩人メンサー博士の依頼で新たな惑星調査任務におもむくが、絶体絶命の窮地におちいる。はたして弊機は人間たちを守り抜き、大好きな連続ドラマ鑑賞への耽溺にもどれるか? ヒューゴー賞ネビュラ賞ローカス賞・日本翻訳大賞受賞作『マーダーボット・ダイアリー』、待望の続編!(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:★★★★★星5 

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 本書は傑作です。ドラマ鑑賞が趣味だけど人間嫌いの人型アンドロイドの弊機が、人間を揶揄しながらも、拉致された人たちを奪還する冒険モノ(困難な問題や未経験のことなどに挑む)です。また、このような弊機が、他人から与えられた目標を制約条件のなかで成し遂げ、そして、自分が選び取った生き方(やりたいこと)を歩む判断にまで至るという、成長譚でもあります。

1.ところで、

・探査や作戦行動・危険の回避などの時間制約のある敵対環境下にあっては、与えられた自分の任務を、自己の裁量と責任のもとで、果たさなければなりません。感情に流されたり、互いに干渉しあっているヒマはありません。アンドロイドであれば、なおさらのことでしょう。

・そして、仲間割れや離脱も多々あるなか、互いを尊敬し信頼を得ていきます。その協力によって得られた成果は、新たな発見もあり、喜び分かち合い、悔やみ悲しむなど、それぞれが感謝・共感を示しながら、次のミッションに向かいます。

2.このような緊張感を強いられる状況であればこそ、

・主人公は、神経系統などの有機組織も兼ね備えた人型アンドロイドの警備ユニットとして、感情面も含めた優れた分析判断力・実行力と身体能力・管理能力を発揮し、愚直なまでにひたむきに警備任務遂行に全力を尽くします。

・本書では、この際に、ドライでシニカル・自閉ぎみの自虐ボッチという弊機のキャラが、さらに生理的?嫌悪もあいまって、全開します。

・人間の社会的・情緒的思考や感情を、心中、極度に毒づき・こきおろし、また困惑もし、そして感情をそぎ落とした一定の距離をとるなどします。このように、かかえる気持ちは表に出さず、かたくなに心に秘める(弊機の言う「嘘つき」)一方で、つい天邪鬼になったり、思わず言葉や態度、行動に出てしまったりする面も多々あります。

3.しかしながら、

・こうであればこそ、一見、嫌われものになりかねない弊機は、ⅬGBTの話ではありませんが、虐殺事件に関わったという不信感を拭い、その周囲からは、暖かく優しくされ、思い遣りを受け、信頼もされ、さらには機材ではなく、ひとりの人格として認められるようになります。

 なお、ここで、本人の自覚なく、恵まれた環境に感謝しない・気づいていないと感じられるところが、イタく感じます。

4.全体を通して、

・乾坤一擲(運を天にまかせてやってみる)、窮すれば通ず(行き詰まりを切り開く)、思いもかけぬところで、出口は見つかるのだと思いました(勤勉・忍耐とは真逆です)。

・別の見地からは、世間知らずの駄々っ子の媚びを売る、歓心を買おうとしているお手盛り話と勘繰ると、一気に興醒めです。

・あるいは、単純に、成長期などにおける盛んな生体生理が成長や代謝などに収まらず、五大本能(「生存本能」「群居衝動」「自己重要感」「性欲」「好奇心」)に発露されているだけなのかもしれません。

・とは言っても、自分もまんざらでもないなど思いこめてしまうような、無意識のうちに自己への愛着・執着心をくすぐり、肯定感をもたせてくれるなあと、感じました。

 

 さて、以下は簡単な?とりまとめです、参考まで。

(1)襲撃

・弊機は、アラダ博士や、メンサー博士を第二母にもつアメナたちの警護を行った惑星調査の帰還時、巨大AIのART搭載の教育・貨物・調査船から、砲撃されます。

・ARTに掴まれ、ワームホールに引きこまれていた施設モジュールに取り残されたアメナと弊機は、その切り離し後、EⅤACで母船へ戻るはずでした。が、ARTに捕捉されてしまいます。アラダたちも、施設モジュールの救命ポッドで避難しますが、母船にたどり着けず、損傷に伴う自動接近によってARTとともにワームホールに引きこまれました。

・ART船内は異星遺物に汚染されてインプラントを埋め込まれた、灰色人間に乗っ取られていました。ARTのシステムは既に削除され、非標準の暗号化フィードが飛び、敵システムによって運用されていました。

・また、ARTに拿捕されたバリッシュ-エストランザ社の2名もインプラントを埋め込まれ(企業リム(CR)以前に調査され、40-50年前に開発後、頓挫したコロニーの再生ビジネスをするために向かう途中に襲われました)、拉致されていました。うちひとりが、灰色人間の遠隔信号装置によって、弊機に向けて発砲後に殺され、もうひとりは、弊機とアメナがインプラントを取り除きます。

・弊機は、ARTを喪った悲しみと怒りから情緒的破綻に至り、アメナを脅していた灰色人間たちをなぎ倒します。船内の乗組員捜索や、機関モジュールを調べる中、灰色人間が敵システムに送ったコードの複製を書き、送り続けます。なお、ARTのエンジンには異星遺物を付着されたことで、高速でワムホールを抜けます。

(2)ART復旧

・弊機は、アメダたちをART内に迎え入れるハッチをアメナに開放させ、同時に、攻撃を始めた灰色人間を排除します。その際、弊機による大量リクエスト攻撃による敵システムのダウンによって、ARTと弊機との通信インターフェースに「僕は自分の体のなかに監禁されている」というメッセージが遅延着信します。

・不意打ちによって負傷しながらも、弊機は管制室のディスプレイでデータストレージを探し、ARTのバックアップシステムを発見。ふたりのみが知るパスワードを使って、ARTの再インストールに成功(敵システム削除)します。援護のアメナたちの灰色人間との混戦状態の中、復活したARTが、敵システムのコードを使い、灰色人間にアクセス(斃し)します。

・復旧したARTからは、兵器を求める灰色人間たちによる乗組員の拉致とARTのそのための協力(エンジン異星遺物付着やシステム削除)があったこと、また奇襲は、灰色人間にとっては弊機という武器奪取・ARTにとっては弊機による乗組員奪還のため、灰色人間たちに弊機たちの調査船を襲わせたという、人命にかかわる手荒なARTの策謀だったことがわかります(簡単に言えば、弊機たちはARTに利用・拉致された、危険な目にあったということで、弊機は怒ります)。

・また、惑星再開発中断中の、居住者=敵の存在する星系にいること、ARTはバリッシュ社船の遭難信号を受けてこの星系に来たのち、システム障害が発生し、侵入者に占有され・乗組員を拉致されたこと、灰色人間は前CR時代の技術や言語を使っており、前CR時代と同じ場所にバリッシュ社はコロニーを築いたこと、ARTの目的は、37年前にアダマンタイン社が設立・放棄(故意に隠匿?)した惑星コロニーの所有権を、補給船もなく見捨てられた残留者に与えようとしていたこと、などもわかります。

・ART船内にいるアメナたちは、帰還のためにはART乗組員救出をしなければなりません。まずはバリッシュ社船を探すこととし、運行ログから所在を特定します。

(3)バリッシュ社補給船

・襲撃を受け遭難状態のバリッシュ社補給船と交信し、灰色人間に拘束されていたバリッシュ社員がいること、襲撃されたこと、必要物資の提供など、情報交換のため、弊機とアラダは乗船することとなります。

・そこで、バリッシュ社員を引き渡し、彼らが所有する惑星地表へ送った先遣隊が汚染・コントロールされたこと、そして戻った探査船内で乗組員を拘束し砲撃を受けたが、探査船内の警備ユニットが発したウィルス警告によって難を逃れたこと、引き渡された2名は汚染に気づかぬまま、点検整備として向かわせ不明となっていたこと、などがわかります。なお、異星遺物汚染は、その解決をしない限り惑星投資からの利益を回収できない、従業員や資産の危険暴露責任問題にもなる、企業にとって繊細な問題です。さあ次は、失われたコロニーです。

・なお、その道すがら、敵システムに難解な構造や異星遺物技術が含まれている可能性があり、可変的な対応が必須であることから、弊機はARTに、現状の敵システムの防御から攻撃への手立てとして、弊機の意識をコピーしたキルウェアを提案します。

(4)失われたコロニー

・機能不全の警備システムとなっているコロニーの宇宙港を調査し、銃撃されたバリッシュ社員、顧客に置いてけぼりにされ距離制限によって無力化された警備ユニットを発見する中、探査船にロックオンされてします。探査船はART乗組員を人質に、敵システムの再インストールが目的です。なので、ARTが探査船に威嚇射撃をし、準備していたキルウェアを送信します。ここで、宇宙港の監視カメラ映像から、5人のART乗組員の生存を確認しました。弊機たちは地表へ降ります。

・弊機が地表の単独偵察により、汚染に伴う奇怪な建物、異星遺物に汚染された暴力的的反応として、地上港付近での入植者どうしの銃撃戦を見つけるなかで、逃げ延びようとしていたART乗組員5名を確認・接触します。銃撃戦の小康状態と、乱入してきた農業ボットの足止めをするなか、脱出しますが、弊機はその打撃を受け、下敷きとなったうえ灰色人間から被弾してしまいます。

(5)バリッシュ社探査船、マーダーボット2.0

・ロックオンしてきた探査船では、敵システムがいるなか、2.0として、まず、警備システムに侵入します。船内は、灰色人間やバリッシュ社員、警備ユニットの死体がころがっています。娯楽ラウンジで倒れている、インプラントされたART乗組員3名の生存と攻撃停止命令を受けた警備ユニット3号を発見します。

・ここで、2.0は警備ユニット3号の統制モジュールを凍結したうえで、インプラントの不足のため惑星地表に5名のART乗組員を送ったこと、また、探査船への異星遺物の付着失敗と、星系侵攻に備えた武器入手の失敗をしていたこと、がわかります。そこで、警備ユニット3号にART乗組員のシャトルまでの誘導救出の依頼をします。そのための統制モジュールの無効化を決断するために、ヘルプミ―・ファイルを提供することで信用してもらおうとします。

・そして、2.0は、敵システムさらにその背後にいると思われる敵連絡者に対し、しかけた敵システム排除コードを発動し、これにより、敵連絡者は身体的苦痛を感じます。その他、ハッチの操作やドローンの破壊、インプラントの遠隔通信装置の接続切断をし、3号による灰色人間への応戦をえながら、ARTシャトルへのART乗組員救出に成功します。2.0は、敵連絡者の接続を経由して、惑星へ転送されます。探査船はしかけられたコードによって爆発します。

・3号はシャトルをARTに向けて操縦し、無事到着します。救出された者から、敵システム侵入原因が医療スキャンによることが明らかとなり、また、灰色人間に捕まった1.0の救出のために、爆装パスファインダーによるコロニー爆発策について、ART船内は紛糾します。ここで、3号は、救出作戦協力をARTに申し出ます。

・惑星地上での、爆走ファインダーを盾にした、弊機の解放もしくは居場所の特定のための灰色人間との交渉を始めます。その間、3号は、偵察ドローンからの連絡によって捜索活動を始め、弊機居場所への侵入を開始します。

(6)失われたコロニー地下

・弊機は、地下の縦穴で逆さ釣りに拘束され、異星遺物汚染源に曝されます。自ら手首を外して脱出し、フィード接続したところで、転送されたキルウェアの2.0が頭に居座りました。弊機は、2.0から敵連絡者の無力化の必要を諭され、救難信号をだすシステムを探しながら、格納庫のような大きな空間奥の部屋に辿り着きます。そこには石の床からはえた白い糸状の物体に包まれた人間の死体があり、アクティブな信号を拾うと、人間~中央システム~接続経路と伸びる、不気味な敵システムがありました。

・どうやら、縦穴での事故で封印が破れ、確認したインターフェースをもつアダマンタイン社員が異星遺物に感染し、持ち込み、中央システムにとりついた、のが発端のようです。

・では、敵連絡者はだれか。そう思って、見てみると、腐敗臭も乾燥もしない白い生成物につつまれた死体の目が弊機を見ていました。

・敵システムが弊機を検知しないので、感染は人間から機械へ、機械から人間へと起こると考え、感染した死体をスキャンした弊機も感染していることがわかりかけたところで、異常コードが発見されます。削除を試みると敵システムが反応して、弊機の頭に流れ込んできます。削除されるか支配されるかです。しかし、ここで、2.0が敵システムを引きずり出し、中央システム内に追い込みます。つらいのをこらえ、2.0の犠牲とひきかえに、中央システムのシャットダウンとユニットを破壊しました。

・ここで、死んでいるはずの敵連絡者が、弊機にとびかかってきました。つかまれば、死んだ中央システムの代わりとして、使われてしまいます。が、ここへ、3号が到着し、重症の弊機をかかえARTのシャトルへ飛び込み、ARTがパスファインダーを爆発させ、敵連絡者を消しさりました。

(7)ミッション

・弊機は、除染と治療後に、アラダたちとART乗組員が協力して遺棄可能な弊機の救出にあたってくれたことを知ります。そして、ARTから次のミッション参加依頼を受けます。(2021.11)

 

P113 「そもそもわたしはこれに嫌われてるのよ」弊機は人間というものに最初からうんざりしていますが、それにしてもこの言い分は不公平です。そもそも彼女の方が弊機を嫌っているのです。

P116 ここで、”最初からつけてましたよ”と言えば、ドラマによくある苦笑いと息抜きの場面になったでしょう。

P139 構成機体でよかったと思うのは繁殖しないところです。自分がつくった子から反抗されることがありません。今度ばかりはいくらか不機嫌に答えました。

P146 人間はすぐ死ぬのでうんざりです。

P146 怒っています。あるいは、とてもいらだっています。理由は自分でもわかりません。

P148 「ええと・・・とりあえずすわったら」まるでヒステリーを起した人間のような扱いです。もっと悪いことに、弊機はヒステリーを起した人間のようになっています。

P240-242 人間は、自分では完全に論理的と思いながら、実際にはまったく非論理的で、それを頭のどこかでわかっているのにやめられないということがあります。どうやら警備ユニットもそうなることがあるようです。

P244 おやそうですか。歯ぎしりというものをしたい気分になりました。

P269 「二人で内緒話?」「そうです」壁に向いて立ちたくなりました。

P273-274「質問していい?」どう答えるべきでしょうか。本能的な反応としてはつねに”いいえ”です。それとも不可避な流れを受け入れるか。とりあえずこう答えました。「それは契約に準拠していますか?」青少年の大きなため息。

P273-274 どうしてARTは人間の青少年なんか好きなのでしょう。本当にめんどくさい。

P320 「似合ってるじゃない」反応したら負けだと思ったので無視しました。

P355 「ひどい表情よ。だいじょうぶ?」だいじょうぶではありません。困惑のきわみです。

P415 そのような心配性の人間のほうがむしろ勝手に出ていって勝手に死にがちです。

P472<異星遺物汚染は自己診断で検知できないでしょう><それはわかりません>やれやれ、こんなところにすわりこんで自分と議論しても時間の無駄です。

P506 だれかの手が肩に伸びたので、反射的に身をすくめ、また再起動しそうになりました。アメナの声が聞こえます。「だめよ!さわられるのが嫌いなんだから」

P518 「ごめんなさい。あなたに”気持ち”を尋ねるのはタブーだったわね」ARTが人間の若者を好きな理由がやはり理解できません。

CM 

 最後までおつきあい頂きましてありがとうございました。

では、また!