キジしろ文庫

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フィリパ・ピアス「トムは真夜中の庭で」

あらまし

 友だちもなく退屈しきっていたトムは,真夜中に古時計が13も時を打つのをきき,昼間はなかったはずの庭園に誘い出されて,ヴィクトリア時代のふしぎな少女ハティと友だちになります。歴史と幻想が織りなす傑作ファンタジー ○小学5・6年以上

 (本書裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:星1 

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 以下は、備忘のための簡単なとりまとめです、参考まで。

・夏休みの間、主人公トムは、弟のはしかがうつらないよう、おばさんのアパートで過ごします。そこで、遊び盛りのトムは、既にはしかにかかっているかもしれないことから、出かけることもなく家の中だけにいるために、退屈で、夜遅くまで眠れなくなっていました。その夜中に、アパートにある大時計が打った13の時の数が気になってしまい、月の光を入れて文字盤をよく見ようと裏口を開けました。すると、裏庭にはあるはずのない、うっとりするような美しい庭園が広がっているのを目にしました。

・そこでは、両親が亡くなったあと、引き取ったおばさんから、つらくあたられている女の子ハティたちが元々の邸宅や庭園で遊んでいました。しかし、ハティは、年の離れた従兄三兄弟から十分かまってもらえず、もの足りていませんでした。そこへ、ハティにしか姿や声がわからないトムが現れたことで、ふたりは、木々や池、菜園・果樹園や牧場で、風と陽の光、花や鳥とふれあい、木登り、庭園外の川への探訪、木の上の家づくりをし、空想の空言や真似事をしながら、打ち解けあい、戯れ、心を満たします。

・なお、園丁のアベルからもトムは見えていましたが、ハティを殺そうとする悪魔だと、考えていました。また、トムは遊びのキリの良いところで庭園から裏口へ戻ったり、あるいは庭園や邸宅で疲れて寝てしまうと、そこは、ほとんど時間が進んでいない元のアパートに戻っていました。

・さて、時間は前後しながらも、ハティは徐々に成長していく一方で、トムは変わることがありません。それでも、遊び友達であるトムとハティは、どちらが幽霊か言い争ったり、トムが登った煉瓦塀からの、庭園の外の広々とした眺めを話してあげたりしていましたが、やがて、ハティは作っていた木の家から落ちてしまいます。トムのハティのケガへの心配はもちろんですが、従兄の兄がハティを、これまでひとり遊んでいたがっていた庭園内から外へ引っ張り出して、自分の友だちの仲間に入れて遊ばせ、友だちをつくるようにしていくこととなりました。

・そして、冬が訪れた庭園では、トムは、池でスケートをするハティから、今度、友だちと行くスケートの話をされます。やがて、弟のはしかも治りました。が、トムは、このハティのいる楽しい世界に夢中になっていたので、自分の家に戻りたくはありませんでした。

・なので、トムは、この不思議な過去と現在の行き来について、考えていました。それは、大時計に振り子に書かれていた「もう時がない(黙示録、第十章、一から六まで)」という言葉から、人はそれぞれが別々に「時」を持ち、理由はわからないが、それを行き来できる、ということでした。

・次に、凍った牧場で仲間とスケートをするハティに(トムにはその靴がありません)、スケート靴を邸宅の秘密の場所に置くように頼みます。トムは、現実のアパートに戻り、その場所にあったスケート靴を見つけ、現実である確証を得たことから、庭園に永くいることができる、と喜びました。そして、それをハティにも告げようとしていました(結局そのチャンスはありませんでした)。

・こうしてトムは、その靴をもって庭園に行ってみると、ハティから誘われて、一緒に馬車に乗り街に出て、凍った川をスケートで下っていきました。そして、大聖堂の塔のうえから広大な自然や街並みをハティと見た後、バーティと偶然出会いました。バーティは親切にも家まで馬車で送ってくれます。ぎこちなかったふたりが懇意になる様子に、トムは、いつまでも楽しくいられる庭園のはずが、大人となったハティを感じ、孤独や空しさを覚えてしまいました。このようにして、ハティからも、見えるはずだったトムは徐々に薄くなっていきました。

・自宅に戻る前夜、いつものように、裏口を開けてみると、ハティの世界はありませんでした。トムの悲痛な叫びが、アパートの家主のバーソロミュー夫人(ハティ)まで届きます。

・昨夜の騒ぎのお詫びのためにバーソロミュー夫人を訪れたトムは、ハティとはバーティと結婚し、その後に邸宅を買取り、夫の死後に引越し、今のアパートの家主のバーソロミュー夫人だということがわかりました。

・今回の不思議な出来事は、トムの遊び相手を捜す満たされない想いが、バーソロミュー夫人の昔を夢見る心を、遊び盛りだった少女時代に連れていき、そのバーソロミュー夫人の「時」と、トムの「時」がつなぎ合わさったたことによるものだ、ということがトムにはわかりました。それは、以下の三つが同時並行していましたが、それよりも、気心が通じていたふたりはやっと、しっかりと抱き合うことができました。

①バーソロミュー夫人の子どものころからの昔の思い出の夢見

②遊びたい一心のトムの夜毎のアパート裏口からの、ハティのいる世界との行き来

③過去の、ハティが、自然と戯れ・遊び友だちが欲しかった少女時代を過ごし、やがて、学校や町へ出て友人や恋人ができ、少女から大人へと変わっていったなかで、トムの存在感が小さくなる一方、トムは、ハティと出会ったときと変わらずに庭園で遊ぼうとしていたこと

・なお、ハティの世界がなくなってしまったのは、バーソロミュー夫人の夢見が結婚後へとなったからでした。

 (2022.06)

CM 

 最後までおつきあい頂きましてありがとうございました。

では、また!