キジしろ文庫

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ディケンズ「二都物語」(下)

あらまし

 ルーシーと結ばれロンドンで幸せな家庭を築いたダーネイだが、元の使用人を救うべくパリに舞い戻るや、血に飢えた革命勢力に逮捕されてしまう。彼の窮地を救うため、弁護士カートンは恐るべき決断を下す…。時代のうねりの中で愛と信念を貫く男女を描いた、ディケンズ文学の真骨頂。(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:星1 

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 本書は、暴力や権力欲、性欲や金欲などの現実的な快楽よりも清らかさを、幸福よりも美しさを、そしてあたたかく神々しい世界に人生の意味や生き方を求めることを教えてくれていると思いました。

 さて、以下は、備忘のための簡単なとりまとめです、参考まで。

・ドファルジュ夫妻が指揮するバスティーユ監獄襲撃に端を発し、やがては王権停止とその処刑、王侯貴族の家名抹消・門閥解体・財産接収が行われ、パリでは、反体制派による共和制へと移行します。このなかで、チャールズの叔父の侯爵城館も焼き討ちをされ、その下僕の投獄・反逆の罪の知らせがチャールズに届きます。この謂れのない無慈悲な行いから救おうとして、チャールズはひとりパリに向かいます。

・そのパリは、共和主義者(革命派)たちによる、貴族たちの暴虐に伴う積年の怨みを晴らそうとする狂気に覆われていました。なので、チャールズは、逃亡した貴族たちと同様にして、拘禁され処刑されてしまいそうになります。そこで、後から追ってきたマネット医師が、自分を救い再起を助けてくれた娘ルーシーの情に報いようとします。

・マネット医師は、おぞましい囚人大虐殺を行い狂騒する群集や処刑送りのための裁判のなか、チャールズは、旧体制の受難者であり暫くは監獄の嘱託医も務めた自分の、義理の息子であることを訴えます。これで、チャールズは一旦無罪となります。なお、チャールズたちの来仏原因の下僕はチャールズの証言もあって釈放されました。

・しかし、チャールズは、ドファルジュ夫妻と、その夫妻がバスティーユ監獄で探し出したマネット医師の当時の手記による告発によって、同日再拘束され死罪確定となってしまいます。

・その手記とは、かつて、チャールズの叔父が、領内農民であったドファルジュ妻の姉への凌辱と義父と兄への虐殺をはたらいたというものでした。さらに、そこで発狂した姉や瀕死の兄の治療にあたっていたマネット医師が、貴族特権を承知のうえで大臣あての告発をしたところ、マネット医師はバスティーユへ投獄させられた、というものでした。

・そして、その惨禍を生き延びたのが妹であったドファルジュ妻でした。なお、侯爵の妻と連れられた幼いチャールズが、亡くなった家族への償いをしようと、マネット医師宅を投獄前に訪れてはおりました。これにより、烈女ドファルジュ妻は、侯爵一族の根絶やしが残された者に託された悲願であり、それを果たすべく、不実のチャールズを処刑に追い詰め、さらに、容赦のない執念によって、ルーシーたちをも陰謀によって告発しようとしていました。

・こうして処刑回避の万策が尽きたなか、この間を見守っていたカートンが、ルーシーには会うことはせずに策を講じます。カートンは、チャールズのいる監獄の看守を口説き(処刑されかねない、仏国の敵の英国スパイであり元王党派スパイといった素性の怪しさを指弾)、チャールズとの直接対面機会を得ます。さらに、自らの手記によって心身喪失となってしまったマネット医師たちと自分の通行証などを揃えて、パリ出国の手筈を整えます。

・そして、処刑直前の対面機会によって、麻酔を使って、瓜二つ容貌のチャールズとカートンが入れ替わります。チャールズは看守によって、マネット医師たちと合流します。そして、カートンは、ルーシーたちに幸福が訪れたことを思いながら、斬首の瞬間を迎えます。なお、ドファルジュ妻は、チャールズ(カートン)処刑前のルーシーを一目見ようとした際に、叩き落とされた拳銃の暴発によって亡くなります。

・このようにして献身・犠牲を選んだカートンとは、執拗な怨嗟と暴走する集団の狂気に向けて、人は愛を授けられ、そしてそれによって生かされている尊い存在だということを見せたのだろうと思いました。

 

※番外編

P306 解説引用 ディケンズの生涯 「階級社会イギリス」

 イギリス社会は、上流階級、中産階級、労働者階級と三つの階級に分かれている。大雑把に言って、上流階級は職業を持たず資産によって生活している人々、労働者階級は工場労働者、農業労働者、召使など肉体労働に従事する人々が属し、これらの中間にある中産階級はそれ以外の様々な職業をなりわいとする人々で構成されている。

 階級が違えば生活環境や生活習慣ばかりか、話す言葉のアクセントや語彙など、言語まで異なっているというのが、ごく最近までのイギリス社会のありさまだった。しかも、中産階級というのは微妙な位置にあった。上を見ては貴族を羨望し、わずかでも上昇したいと思ってあくせく働く。だが、すぐ下は労働者階級、うかうかしていると転落するのではないかという恐怖感がある。そんな風に感じているものだから、上に向いては媚びへつらい、下に対しては軽蔑のまなざしをむけ、上流階級の猿まねでこれみよがしにお上品ぶる。俗物というのが、そんな中産階級の典型的な姿であった。

 (2022.03)

CM 

 最後までおつきあい頂きましてありがとうございました。

では、また!