キジしろ文庫

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テッド・チャン「あなたの人生の物語」

あらまし

 地球を訪れたエイリアンとのコンタクトを担当した言語学者ルイーズは、まったく異なる言語を理解するにつれ、驚くべき運命にまきこまれていく…ネビュラ賞を受賞した感動の表題作はじめ、天使の降臨とともにもたらされる災厄と奇跡を描くヒューゴー賞受賞作「地獄とは神の不在なり」、天まで届く塔を建設する驚天動地の物語―ネビュラ賞を受賞したデビュー作「バビロンの塔」ほか、全八篇を収録。(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:★★★星3

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 本書の独特の知的創造的世界観や基本原理・骨格の発想に対して、理解力と想像力不足のため消化不良です(科学が極限まで懸命に発達してきても、人知の及びえない神の意志、がテーマでしょうか?)。短編8話のうち、以下4つのコメントです。

1.バビロンの塔 

 神の御業である天地創造(大地や天)をよりよく知ろうとして、バビロンの塔を建設し、敬虔な鉱夫たちが天の丸天井に穴を掘ります。途中、人間の企てに神の承認のないことに不安に駆られますが、大洪水にみまわれてしまいます。そこで、たどり着いた先は元の大地でした。このように、鉱夫は、人間の想像を絶する神の御業の芸術性やら世界の巧妙さを知り、畏怖を抱くとともに、揺らぎ続けた信仰の確信を取り戻すことができた、ということなのでしょう。

2.理解

 脳損傷した主人公が、ホルモンK治療により、高度に知能・身体制御能力が向上し、認識・思考・言葉・知覚などをゲシュタルトする臨界超越者となります。しかし、利己的に行動しようとする主人公に対して、人類を愛し世界に繁栄をもたらそうとする、もう一人の臨界超越者(神?)が言放った言葉によって、主人公はゲシュタルト崩壊してしまいます(戒められた?)。

3.あなたの人生の物語

・自分の娘が、事故で亡くなること、誕生すること、成長することを、時間とは切り離して一時に、未来も含めて既視感として見てしまっている認識思考は、神の目線から見ているがごとくと想ったり、また日常世界からすれば、とてもせつなく、またその一方で、手出しをしない(自由意思のない)淡々としたさまの冷たさも感じてしまいます。

・そのような認識思考は、エイリアン(神?)とのコミュニケーションと言語理解を通じて、主人公が習得してしまったものでした。

・それは、因果律や時間概念とはそぐわない、フェルマーの原理及び変分原理のようなもので、人間の一生を対象にあてはめてしまうと、あらかじめ何らかの人生の目的・意味は定まっていて(知りえない)、それを満たすためには、出生と死の状況設定を前提条件とし、結果としての幸不幸などの運命をたどっているにすぎない(ここに日常世界としての場当たり的な自由意思が存在しているけど)、という目的論のような思考・認識方法でした。

4.地獄とは神の不在なり

 天使降臨・地獄顕現の世界で、降臨によって最愛の妻を亡くす・目が見えなくなる・元々脚が不自由だが復活するなど、これは啓示なのか、罰なのか、救いなのか?気まぐれな神の意志に、勝手に解釈・思案し、神の恵みを求め、右往左往・喜怒哀楽する人間たちが登場します。主人公は、死ぬ間際に遂に神への帰依を果たしますが、なぜか地獄に叩き落されるなど、とても散々です。結局、救いとは神の存在の有無にかかわらず、信仰という心の状態であることを指し示しているのだなと思いました。 

(2020.09)

では、また!