キジしろ文庫

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ジッド「田園交響楽」

あらまし

 身よりもなく、まったく無知で動物的だった盲目の少女ジェルトリュードは、牧師に拾われ、その教育の下でしだいに美しく知性的になっていった。しかし待ち望んでいた開眼手術の後、彼女は川に身を投げて死んでしまう。開かれた彼女の眼は何をみたのだろうか。牧師と盲目の少女、牧師の妻と息子との4人の愛情の紛糾、緊張を通して、聖書の教え「盲人もし盲人を導かば」の悲劇的命題を提示する。(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:星1 

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 本書では、ある想念が、ひとりの女性の人生を破滅させ、自らも絶望に至るといった、思いもかけない悲愴な現実を生んでしまうことになります。このような劇的物語性、洗練された美しさが印象深いだけでなく、絵画や音楽のように、この作品全体としての気品や芸術性が感じられました。

 以下は、浅薄で独善的な、備忘のための簡単なとりまとめです、参考まで。

(1)もし盲目なりせば、罪なかりしならん <無垢なる愛>

・語り手の牧師が、身寄りもなくなり獣のような盲目の少女ジェルトリュードを、慈悲の心で引き取り、ともに暮らしながら、無私の愛で、言葉や自然、音楽などを通じて教育・啓発していきます。そして、美しく、情感豊かに成長したジェルトリュードと牧師は、恋に落ちます。

・ところで、牧師は、抑制は法によって強いられるべきではなく、愛によるべきだと、都合よく聖書を解釈していました。したがって、ふたりの恋を倫ならぬ恋だとは考えないように自分を偽っていました。また、牧師は、ジェルトリュードにも同じように接してきました。

・やがて、牧師は、息子ジャックが抱いたジェルトリュードへの好意に嫉妬し、引き離します。また、牧師のジェルトリュードへの狂態を妻から非難されても、牧師は感知できません。そして、ジェルトリュードからの無邪気な告白がありました。

・そして、とうとう、開眼手術前に、ジェルトリュードの方も、牧師の愚行に伴う妻の塞ぎぶりを感じて、罪の意識を感じてはいましたが、ふたりはお互いの愛を確かめ合ってしまいました。

(2)われかつて律法なくして生きたれど、戒命きたりし時に罪は生き、我は死にたり <残酷な覚醒>

・ジェルトリュードは、開眼手術後のお祝いでの、牧師の妻の傷心ぶりを見て、そして、手術後に読んだ聖書の一節によって、ふたりの犯した過ちを自覚しました。だから、ジェルトリュードは入水自殺をしたのでした。

・また、ジェルトリュードの思い描いていた男とは、聖書の一節を教えてくれて改宗していた、息子ジャックであって、告白してしまいたい、とまで牧師は言われてしまいます(正義の移動)。

(3)盲人もし盲人を手引きせば、二人とも穴に落ちん <裁き・破滅>

・このようにして、独善的・恣意的な考えを持っていた牧師は、ジェルトリュードと息子ジャックを一度に失い、そして、自らの信仰の挫折にもよって、心おれ、ひからびてしまいました。

 (2022.05)

CM 

 最後までおつきあい頂きましてありがとうございました。

では、また!