キジしろ文庫

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サン=テグジュペリ「星の王子さま」

あらまし

 砂漠に飛行機で不時着した「僕」が出会った男の子。それは、小さな小さな自分の星を後にして、いくつもの星をめぐってから七番目の星・地球にたどり着いた王子さまだった…。一度読んだら必ず宝物にしたくなる、この宝石のような物語は、刊行後六十年以上たった今も、世界中でみんなの心をつかんで離さない。最も愛らしく毅然とした王子さまを、優しい日本語でよみがえらせた、新訳。(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:★★★星3 

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 本書は、わたしたちの心は、時代や社会の道徳規範や価値体系などによって、容易に影響されやすいものである、ということ。それは、たとえば、権力や暴力、富への執着といった、物質世界に伴う無機質な利己的欲求を満足させてしまうことで、自己を見失い、心を暗く冷たくし、また空しくすさめてしまいがちである、ということ。

 なので、本来の自己が持っている心の内面が感じ取り・覚知することで、人間存在や世界の真性に到達することが大切である、ということ。そして、そのような明るく優しく、ぬくもりのある情感ある精神性の世界観を大事にしなけれなならないし、それはまた、現実の別れや死といった苦しみや悲しみも乗り越えることができる、ということかなと思いました。 

 

 さて、以下は、備忘のための簡単なとりまとめです、参考まで。

 心から周囲とはわかりあえないまま大人となった、操縦士である僕が語り手です。6年前にサハラ砂漠に不時着し、機体修理を終えて帰還するまでの約1週間を、人間の友だちを探していた星の王子さまと過ごした一部始終を語るものです。

(1)王子さまの旅立ちの理由

 王子さまの星では、とても綺麗で星をいい香りで包む薔薇が咲きました。王子さまと薔薇は双方とも想いを抱きます。しかし、薔薇は気まぐれでプライドが高く、水やりや風よけを置いたりなどわがままばかり言うので、王子さまは薔薇の本当の愛情を見抜けませんでした。そして、王子さまは、薔薇への気持ちは抱きつつも、自己中心的となって愛することができなくなってきました。最後まで、ふたりの本心の想いを通じさせることができず、互いに傷つきあいながら、王子さまは星を出てきてしまいました。

(2)王子さまが訪問した小惑星と地球での学び

 王子さまは、仕事さがしや見聞を広めるために、以下の変わった大人のいる小惑星と地球を訪れました。いずれも孤独で心貧しいために、自分の関わる仕事(所有物)によって自己を見失い、空虚で自己中心的欲求を満たしていました。なお、地理学者から、花のはかなさに話が及び、王子さまは胸に痛みをおぼえます。

①王さま(権力や地位)、②大物気どり(名声や尊敬)、③酒びたり(アルコール依存症)、④実業家(資産獲得)、⑤点灯人(服従・受身)、⑥地理学者(無気力)、⑦地球(特急電車や飲薬などとても時間に追われ、心がさびしい)

 とくに、僕と会うまでの王子さまは、

 庭園にあった薔薇を見て、自分が愛した薔薇を、この世に一輪だけしかない財宝のようなつもりで思っていましたが、ありふれたつまらないものにしか思えなくなってしまい、悲しくなって泣いてしまいました。

 そんななか、キツネに出会います。キツネは、時間に追われる人間よりも、王子さまを素敵だと思う自分の方が、王子さまの友だちになれると言い、友だちになります。しかしそこで、友だちになるには「なつく」ことが必要とわかりました。

 「なつく」とは、時間をかけてともに過ごすなかで、気づくことが難しい感情(恋愛、夫婦愛や家族愛、友愛など)が育ち、やがて、その想いを感じ取ることで、唯一かけがえのない存在を知ることとなる。そして、自分の心の中ではその想いは生き続け、他方、永遠の責任を持たなければいけない、というものでした。

 さて、心で見ることを知った王子さまは、再び庭園の薔薇を見てみると、なつかせた薔薇との違いがわかり、薔薇を愛しく思い、その責任を自覚しました。そして、キツネと仲良くなった王子さまは、キツネからの教えを心にとどめ、キツネは王子の美しい金髪の想い出をもつことで、別れることができました。

(3)王子さまの実践と僕への教示・体得

 ふたりは、以上の話をしながら1週間が経ちましたが、修理も終わらず水もなくなり、僕はイラつきはじめます。そこで、王子さまの提案によって、砂漠でのあてのない井戸探しをはじめます。

 ふたりが歩き疲れるなかでも、僕が王子さまの言葉に耳を貸し、そして、僕が心で見た砂漠を美しいと感じたことで、その見えない奥底にある秘密のもの・大事なものであるところの井戸を、見つけました(世界は心によって違う姿を見せる、ということを体得しました)。

 井戸では、僕が、薔薇を想う王子さまを抱きかかえながら一晩中歩いたこと、僕が心で探すことができたこと、そして、ふたりの絆が深まったことから、王子さまにとっては、僕からの贈り物のように、とても心においしい水として、水を飲むことができました(ふたりは、かけがえのない存在になりました)。

 そして、王子さまが来た星が真上にくる、ちょうど1年となる日がやってきました。ここで、星へ戻るために、王子さまは魂となって身体から抜け出す(死)ことで、薔薇のもとへ帰っていきます。それは、永遠に守ってあげたいといった薔薇への愛を全し、責任を果たすためでした。

 お別れに際し、王子さまの笑い声が大好きだった僕は、王子さまから、誰も持っていない星の贈り物をされます。それは、王子さまが戻った星はとても小さく、どこにあるかわりません。なので、夜空の星すべてが僕の友だちであり、この星々を見上げれば、星に戻って王子さまが笑っている声に一緒に笑うことができる、というものでした。そして、僕はもちろん、夜、星々の笑い声に耳を澄ますのが好きになりました。

 (2022.04)

CM 

 最後までおつきあい頂きましてありがとうございました。

では、また!