キジしろ文庫

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サマセット・モーム「人間の絆」(下)3/3

あらまし

 イギリスに戻ったフィリップの前に、傲慢な美女ミルドレッドが現れる。冷たい仕打ちにあいながらも青年は虜になるが、美女は別の男に気を移してフィリップを翻弄する。追い打ちをかけられるように戦争と投機の失敗で全財産を失い、食べるものにも事欠くことになった時、フィリップの心に去来したのは絶望か、希望か。モームが結末で用意した答えに感動が止まらない20世紀最大の傑作長編。(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:★★★★★星5 

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 本書上下巻での「簡単なとりまとめ」は、長々としてその要領を得ていませんでした。なので、信仰を失い・良心までも捨てたフィリップの、本書最後までの思いや行いについて、全体を通してのエッセンスや私見を以下にまとめました。

(1)こころ傷つき悩んだ不自由な脚は、手術によって幾分でも良くなった。これからは、係わりあった、貧しく、怪我や病気で苦しんでいる人を助けよう。

(2)父母を早くに亡くし、家族には恵まれず、孤独も多かった。これからは、巡りあえた、慎ましい妻やその子どもを得て、明るく楽しい家庭をつくろう。

(3)気違いじみた恋愛や一流の画家への道は挫折した。また、人生の意味を解き明かそうとして、それは大分わかってきたが(生は無意味で死は何も残さない。そして、幸福も苦痛も生のいっさいは、同じく絨毯に織りこまれる模様に例えられる、ということ。)、さらに究めたいとも思っている。

 でも、それは、他人や社会が自分に影響を与えた夢や理想を求めてきたものだった。すなわち、他人の人生を生き、そして、歩んできたものだった。

 それも、ひとつの生き方かもしれないが、しかしこれからは、自分の人生を生きて、歩んでいこう。他人や社会から与えられた夢や理想を追うのは、もうばかばかしい。自分が、自ら自然に、欲したものをやっていこう。 

(4)このように、わたしたちの人生には意味や目的はないのだけれども、しかし、人生とは、自分が、自分の欲する道を選び、まず「歩むもの」、そこで「感得するもの」、なのでしょう。そして、こうして得られる、生の実感や悦びを感じ、現実に対して斜に構えることなく、しっかりと向き合って受け止めることが、まずは大切なのでしょう。

 さらに、この際には、共に喜び悲しみ、迷い苦労し、心を分かちあって苦難を乗り越える、このような良縁に恵まれることが、人生を生きていく糧や力になるのだろうと思いました。

 (2022.06)

CM 

 最後までおつきあい頂きましてありがとうございました。

では、また!