キジしろ文庫

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イプセン「人形の家」

あらまし

 小鳥のように愛され、平和な生活を送っている弁護士の妻ノラには秘密があった。夫が病気の時、父親の署名を偽造して借金をしたのだ。そのことを知った夫は社会的に葬られることを恐れ、ノラをののしる。問題は解決し、夫は再びノラの意を迎えようとするが、人形のように生きるより人間としていきたいと願うノラは子供をも捨てて家を出る。女性解放運動に多大な影響を与えた社会劇の傑作。(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:星1 

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 以下は、備忘のための簡単なとりまとめです、参考まで。

・高潔だけど名誉などへの虚栄心が強く、愛玩性癖?をもつ夫ヘルメルと、同様の父に育てられた妻ノラは、3人の子をもうけて結婚8年がたった、とても仲睦まじい夫婦です。

・しかし、この夫婦生活には、どこか尋常ではないものがありました。それは、自己肯定感の弱い妻ノラが、本来の人格を見失い、夫ヘルメルの求める愛玩の虚構(お人形)の遊戯を演じていました。そして、望む芸当を見せ、戯れの愛情を通わせることに互いに満足しあい、さらに共に依存を強めあうといった、実社会と隔離された居心地の良い遊戯室が築かれていました(もちろん、この段階では無自覚です)。

・さて、まもなく銀行の頭取となる夫を喜ぶ妻ノラのもとへ、妻ノラの友人リンネ未亡人が職の世話のお願いにきました(妻ノラは、以下にある借金をこっそり返すのが終えられると喜んでました)。夫ヘルメルは、リンネ夫人を雇い入れる代わりに、過去に狡猾な貸金をやっていて、無作法が気に障るクログスタットを辞めさせようとしました。

・ところが、クログスタットは、かつて、妻ノラが夫ヘルメルには知らせずに、偽署の証書によって夫ヘルメルの転地療養に必要な借金をつくっていた相手でした(妻ノラは、愛情のために行ったと思ってます)。クログスタットは、偽署の事実(詐欺)を夫ヘルメルに明らかにすると嚇し、そして、自分の子どもたちのために地道に働きはじめた現職の残留をとりなすよう、妻ノラに詰め寄ります。しかしながら、夫ヘルメルは、クログスタットを辞めさせてしまいます。このため、クログスタットは、その取り消しを求めて、偽書や借金の事実を手紙で夫ヘルメルに送りつけてしまいました。

・他方、リンネ夫人とクログスタットは、リンネ夫人の母や弟の世話の必要、クログスタットの将来の見込みの薄さから、かつてお別れしていた仲でした。やがて、休む暇なく働いたリンネ夫人は、夫と母を亡くし、弟も職につき、単に自分一人のためだけに働く空しさや孤独を抱えるようになりました。そこで、愛する人のため働き、またクログスタットの子どもの母親になりたいと思っていたことから、不幸な結婚をしたクログスタットとのよりを戻します。これを受け止めたクログスタットは、手紙を出したことを後悔しはじめます。しかし、ふたりは、ヘルメル夫妻の秘密をむしろ明るみに出した方が良いと考え、手紙を取り返すことはせず、代わりに借金の証書を追加で送りました。

・このようにして、まず1通目の手紙を読んだ夫ヘルメルは、愛する妻ノラのおかした罪を犠牲となってかばおうともせず、一方的に妻ノラをなじり・罵り・邪険にし、自分の名誉のためにコトをもみ消そうとしました。そこへ、2通目の手紙が来たことで、今度は急に態度を豹変させて妻ノラを許し、全てを忘れ、元の生活に戻ろうとしました。

・夫ヘルメルは、このようにして、閉鎖されていた家庭への外的作用によって、つい、現実の本心を妻ノラに曝け出してしまいました。

・そこで、妻ノラはどうしたかというと、まず、夫ヘルメルの愛情とは、命がけで夫ヘルメルを助けようとしていた自分の覚悟(夫の名誉のために自決)ほどのものがないことに、悲しく空しく思いました(直前には、妻ノラの危険は命がけで守ると言ってたのに、です)。

・また、夫ヘルメルが、自分への危険の恐れがなくなると、何事もなかったかのようにして、妻ノラとわかりあうことなく、一方的に元の楽しい生活に戻そうとしていました。このことから、自分は、夫ヘルメル自身の慰みのための玩具だった(人間扱いされておらず、気がむいたときに遊ぶお人形)ことに気付きました。

・これにより、夫への愛情を失い・嫌悪し、人間としての自分や子どものやり直しのために、夫や子どもとの家族関係からひとり離れて、世間へ脱出することを、自分の意志で選びました。

 (2022.05)

CM 

 最後までおつきあい頂きましてありがとうございました。

では、また!