キジしろ文庫

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アーシュラ・K・ル・グィン「さいはての島へ ゲド戦記3」

あらまし

 ゲドのもとに、ある国の王子が知らせをもってきた。魔法の力が衰え、人々は無気力になり、死の訪れを待っているようだという。いったい何者のしわざか。ゲドと王子は敵を求めて旅立つが、その正体はわからない。ゲドは覚悟を決める。中学以上。(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:星1 

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 本書からは、人間には、利己心によって、自分の心を邪悪なもの(不死、限りない富など)へと衝き動かしてしまう、欲望が存在している。そして、このような欲望に心を大きく傾ければ、世界の均衡が破られ、やがては破滅に至ってしまうことにもなる。なので、そのような「獲得する力」ではなく、愛を受け止め、そして愛を捧げ、報いを期待しないといった「利他的な心」(真の名を明かす、俗世の名から離れた精神世界)をもって、生きていくことが大切である、ということなのだろうと思いました。たとえば、それは、本書にある、魔法を使えないアレンが、世界の人々の幸せのために、そして、世界の均衡を取り戻そうとするゲドのために、死の入口に立つほどまでに力を尽くしたように、です。

 さて、以下は、備忘のための簡単なとりまとめです、参考まで。

・ロークの魔法学院院長で大賢人となったゲドの元へ、王家エンラッドを興したモレルの血筋をひくアレンが訪ねます。アレンは、魔法が力を失うなど、邪悪なものによって世界の均衡が破れ始めたこと(凶作、疫病、争い)への知恵や術を得ようとしていました。ところが、敬愛する大賢人ゲド自らが乗り出し、ふたりは確かなあてもない危険な旅に出ることになりました。

・途中、ホートタウンでゲドは、生命と交換に不死となった、かつての魔法使いだったウサギに会いました。ゲドとウサギは、黄泉の国へは行ったものの手掛かりを掴むことができませんでした。ウサギとアレンはこの後で、奴隷商人に捕まってしまいますが、ゲドによって助けられます。

・次のローバネリーでは、力を失った染師の魔法使いソプリに会いました。ソプリは、闇の中の扉と傍らに立っている死を征服した者を見たということから、このソプリも旅に同行することになりました。なお、ソプリは永遠の不死を求めており、死んだ者が生き返る場所へ行って戻ることで、自分の安心を得ようとしていました。

・しかし、次のオブホルで、島民からの投槍の襲撃によりゲドは負傷し、ソプリは船から天落水死します。ゲドたちは何とか退避しますが、船は外海を漂い、水や食料も尽きてしまいました。 

・そこを、いかだ族によって助けられ、そして破滅を救ってもらおうとゲドたちの前に現れた竜が、ゲドたちをセリダーに導きます。

・セリダーでは、かつて、死者を呼び出す魔法を使い、財をなしていたことを、ゲドが懲らしめたクモが、亡霊として現れます。ゲドたちは、クモを追って死者の霊が彷徨う黄泉の国に入ります。クモは、死を拒み永遠に自分であり続けたいエゴに駆られていました。そして、自分の命と引き換えに、死の国から戻る道である生死両界の扉を開けていました。

・しかし、世界は、身体は自然の循環のなかで永遠に生き、名だけが両界の扉をくぐるものであるということのようです。他方、死を拒めば生を手放すことになるので、今のクモは、生であった大地や光、愛だけでなく自己(自分の真の名)をも放棄していることになります。したがって、クモは、空白となった自己を埋めようと、地上のもの全てを引き寄せようとしていましたし、また両界の扉は、生きている人間の心の中でも扉は開いているために、同様に地上の人たちなどを引き寄せていたのでした。

・ゲドは、自分の魔力をすべて使い果たすことで、開いていた扉を閉じました(クモは、セリダーの砂浜で、既に竜に押し潰されてしまっていたので、これでやっと亡くなったということでしょうか?)。その後、ふたりは黄泉の国を出て帰還し、ゲドは故郷のゴントに帰り、アレンは800年間、空席だったアースシー全土の王につきました。

 (2022.04)

CM 

 最後までおつきあい頂きましてありがとうございました。

では、また!