キジしろ文庫

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アイザック・アシモフ「鋼鉄都市」

あらまし

 市警本部長から突然の呼び出しを受けたニューヨーク・シティの刑事ベイリは、宇宙人惨殺という前代未聞の事件の担当にされた。しかも、パートナーとなる宇宙人側の捜査官はR・ダニール ー ロボットだったのだ!地球からの移民の子孫である宇宙人への反感と、人間から職を奪ったロボットへの憎悪が渦まく巨大な鋼鉄都市ニューヨークを舞台に、真相を究明すべく、ベイリの孤独な戦いが始まる・・・SFミステリの金字塔!(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:星1 

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 特段のコメントはありません。最後の引用につきるものと思います。

 以下は、おさらいです。

 地球人は、人口増加に対して、等級付け・画一化などの効率化された公民主義とハードとしての鋼鉄都市・シティの中で過ごしますが、やがて訪れるエネルギー・食料・災害などの危機に目を瞑りながらその安定を貪っています(シティ依存症による頽廃)。そんななか、突如制圧してきた、隔絶の発達文明にある宇宙人への畏怖と、それに伴って存在することとなったロボットに対して、劣等感を抱きます。とくに、捻くれた懐古主義を抱く者たちによって、宇宙人やロボットに対しての嫌悪や憎悪が、暴動に発展しかねない状況にあります。

 他方、宇宙人は、やがては同様の破滅の境遇にあるため、限界にある地球にロボット化を取り入れ(C/Fe文化)、余剰の人的資源とともに他の惑星への移民などの宇宙開拓に向かいたいとこれまで考えてきていました。このため、犯人検挙による地球側への圧力というよりも、その賛同者の発見と支援(さらには宇宙植民を心に植え付ける実験←失敗)が、宇宙人側の事件捜査としての大きな狙いでした(かつての帝国主義など、合理的でない人間特有の精神構造から、地球は宇宙国家としては相いれないという意見もあった)。そして、実験が失敗するなかで偶然にも、ロボット化に伴う失業と降等への不満・シティの廃止などを求める懐古主義者には、過去へのロマンチストゆえに、開拓への渇望を内在していることがわかり、さらに、その長であり、事件犯人でもあった市警本部長の改心によって、宇宙人はその目的を達成したことから、地球を去ることとなります。

 ところで、宇宙人惨殺事件は、このような市警本部長が、人間と見分けのつかないロボットとコンビを組ませたという極秘捜査情報を組織に流し暴動によって嫌疑をそらそうとしたり、また主人公を誘導したり、銃の運搬役としてロボットを使い、また口封じのために自壊させ(主人公にとっては、組織の一員である主人公の妻との会話を聞かれていたが)、さらに主人公にその罪をきせようとし、主人公の追及を逃れようとします。途中、宇宙人による事件でっち上げ暴動陰謀説や、人工胃を使ったロボット犯行説がでてきますが、事件は、本部長がロボットだと思って誤って撃った誤射であり、その解決の糸口は、宇宙人やそのロボットには理解不能だった、壊れた眼鏡レンズが、本部長のものという物証でした。

 

P330引用

 人間には、人間としての能力を持ったロボットを造ることはできないんだ。まして、よりまさったロボットなんて無理な話だ。美的センスとか、倫理観とか、信仰心を備えたロボットも造れない。電子頭脳は、唯物主義から一センチでも出ることはできないからね。

 そんなことはできない相談で、ぜったいにできないのだ。われわれの脳を動かしているものが何かを理解できないかぎり、できない。科学が測定できないものが存在するかぎりできない。美とはなにか、あるいは、良心とは、芸術とは、愛とは、神とは?われわれは永遠に、未知なるもののふちで足踏みしながら、理解できないものを理解しようとしている。そこが、われわれの人間たる所以なんだ。

(2020.11)

では、また!