キジしろ文庫

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アイザック・アシモフ「神々自身」

あらまし

 西暦2070年。研究室の試薬ビンを手にした化学者フレデリック・ハラムは驚愕した。タングステンが入っているはずのそのビンには、我々の宇宙には存在しないプルトニウム186が入っていたのだ! それは〈平行宇宙〉からタングステンとの交換に送られてきたらしい―〈平行宇宙〉ではタングステン186が、我々の宇宙ではプルトニウム186が無公害でコストゼロのエネルギー源となる。かくて〈平行宇宙〉とのエネルギー源の交換がエレクトロン・ポンプを通して行なわれることとなった。だが、この取引きには恐るべき罠が隠されていた!米SF界の巨匠が満を持して放つ最高傑作(文庫本裏表紙より)

 よみおえて、おもうこと

 雑感・私見レビュー:星1 

《以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。》

 本書からは、第一に、利己的な欲求や生理的機能に対しては、高邁な思想や優れた理論(神々)を、信念や情熱をもって伝えても、実験やシミュレーションによる定量化などの実証結果に基づく客観的原理の構築がなければ、受け入れてはもらえない、という印象を持ちました。

 第二に、現在、大きなエネルギーを発生させるためには、核融合(太陽、水爆)と核分裂原子力発電所原子爆弾)の2種類がある、という知識が必要そうで、その上で、以下のように考えました。

①核相互作用が弱く、核分裂が容易な現宇宙では、存在しえない不安定な核相互力の強いプルトニウム186はエネルギーを放出して、タングステン186へと変化し安定します。他方、パラ(平行)宇宙では、この逆でタングステン186がエネルギーを放出して、プルトニウム186に変化します。

②このように、エレクトロン・ポンプとは、現宇宙とパラ宇宙間を繋げることで、異なる物理法則の違いから、エネルギーを取り出す仕組みのようです。

③具体には、このような、現宇宙でのタングステン186がプルトニウム186となる物質交換の過程には、パラ宇宙から現宇宙への物理法則の流れ込み(核相互作用が強くなる、核融合しやすくなる)が生じているようです。

④したがって、現宇宙の核融合である太陽爆発の懸念が生じるし、このために、コズメッグ・ポンプによって、核相互作用の更に弱いコズメッグ宇宙に繋ぎ、現宇宙での物理法則の均衡をはかることによって、太陽爆発を回避しようというものなのでしょう。

  さて、以下は本書の簡単なとりまとめです、参考まで。

(第一部)大学の物理学教職に就くラモントは、上記「太陽爆発」の真理の感触を得て貫き通そうとしますが、ハラムに睨まれハズシにあい、学内や政治家からも相手にされず、さらに、パラ人との交信を行いつつあった、考古学者のブロノフスキーからも見放されてしまいます。

 このように、ラモントたちは、「エレクトロン・ポンプの父」である、ハラムの功績・名声・地位といった、プライドや権威主義に屈服します。しかし、考えを捨てなかったことから、「愚昧を敵としては、神々自身の闘いもむなしい」、と述べた超越的存在者が、第三部で審判を下します。

(第二部)ラモントたちと交信したパラ宇宙の様子が描かれます。理性子(理性)・感性子(感性)・親性子(常識や本能)が、三つ組となり、融交によって同様の子を産んだ後、それまでの三人の軟族が融合・終熄し、ひとりの硬族へと進化する世界です。

 ここでは、以下のように作用するポジトロン・ポンプの停止への意志や行動によって、感性子が、自らの終熄の怖れを、充足感に代え、また、最後の融交を行うことで、硬族となって訴えをより確実にしようとしますが、逆に、ポンプを継続する硬族になるという、進化の仕組みに阻まれてしまいます。

・パラ宇宙の冷えていく太陽を加速させる

・他の二人の裏切りによって感性子をつくることとなった要因である、食べてしまったエネルギーをつくる

・現宇宙の太陽爆発を犠牲にしてまで得ようとするエネルギーをつくる

(第三部)テラフォーミングや製品の地球への供給など、科学指向の強い月世界において、もともと、ルナ人物理学者のバロンは、以下のような月世界での制約や干渉に不満をもっていました。このため、その独立と自由を目指し、バイオナイザーなどを用いたパラ理論の研究を進め、得られたエネルギーによって、月を移動させ、地球から離れようとしていました(もちろん合意は得られず、挫折しました。なお、途中、このような目的を探られないよう、意図的にデニソンにバイオナイザーを貸します。)。

・地表面太陽光発電の保守管理と地下生活への縛りつけや、地球人観光客たちからの月環境に対する蔑みや憐れみ、地球人を”地ジルシ”と呼ぶルナ人側の嘲弄

・ハラムによる、プロトン・シンクロトロン設備の使用ができないといった研究制約(エレクトロン・ポンプの月での無稼働など、パラ宇宙人側によって利用されていることを明らかにさせないため)

 このようなバロンの恣意的研究に対して、コズメッグ・ポンプは、ハラムに異を唱えた(エレクトロン・ポンプの危険性)結果、大学を追われたものの、地球から離れた月施設を利用した研究の再開を期して訪れたデニソンが、パラ理論を拡張させ、また、バロンのパートナーで観光ガイドであるセルニの直観能力者としての力を得て、実証を行い、無事成し遂げることができました。

(2021.03)

では、また!